このページのまとめ
- 石油業界は中東の政治状況や気候変動の問題の営業によって事業のあり方が変わりやすい業界
- かつては「石油メジャー」と呼ばれる大規模な会社が原油生産を支配的に行っていたが、現在はサウジアラビアなど産油国の国営企業が原油生産を管理
- 1996年の特定石油製品輸入暫定措置法廃止によって石油会社は再編・統合が進んだ
- 多くの石油会社が再生可能エネルギーや水素エネルギーなどに取り組み始めている
- 石油会社は電気事業にも取り組むなど、総合エネルギー企業として生き残っていくことが必至
本記事の執筆者
本橋 恵一(もとはし・けいいち)
エネルギービジネスデザイン事務所代表、エネルギービジネスコンサルタント、ジャーナリスト。エネルギー業界誌記者、エネルギーIoT企業マーケティング責任者を経て現職。著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」ほか
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石油業界とは
世界で使われる一次エネルギー(※)のおよそ3分の1(日本国内ではおよそ4割)が石油です。それだけに、石油会社は社会・経済において重要な役割を果たしています。現代文明は石油によってもたらされたといっても過言ではありません。しかし、
・中東という政治的に不安定な地域に資源が偏っていること
・気候変動問題の原因の1つである温室効果ガスを排出すること
上記2点から事業のあり方が大きく変化しつつある業界でもあります。
※一次エネルギー
自然界に存在する、人間による加工が行われる前のエネルギー素材。木炭、石炭・石油・天然ガス、太陽放射・地熱・風力・水力、原子力など。
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石油会社の役割と国際情勢
石油会社の役割は、油田を開発して生産した原油を製油所で精製し、ガソリンや灯油、軽油、ナフサ、LPガス(液化石油ガス)などの石油製品を作り販売していくというものです。原油の生産にあたって、かつてはエクソン・モービル、ロイヤル・ダッチ・シェルなど「石油メジャー」と呼ばれる、国際的に大規模な会社が支配的に行っていました。現在は、サウジアラビアやロシアなど産油国の国営企業が原油の生産を管理しており、石油メジャーの影響力は縮小しています。
一方、石油製品を消費者向けに販売しているのはガソリンスタンドやLPガス販売店です。こうした会社は、独自の流通機構や直接販売によって石油製品を販売する石油元売り会社と特約店契約(※)を結ぶ会社が多く、モービル石油や昭和シェル石油など系列の会社を街なかでよく見かけることができるでしょう。
※特約店契約
メーカーと卸売業者などとの間で特別の契約を結ぶことによって、自社製品の販路を全国的に安定かつ拡大するシステム(制度)のこと。
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原油価格は安定傾向に
現在、原油価格に大きな影響を与えているのは、OPEC(石油輸出国機構)の生産調整、およびロシアなど主要な非OPEC諸国のOPECへの協調に対する姿勢 です。とはいえ、近年は米国でシェールオイルという非在来型の原油が生産され安定的な供給ができるようになり、2000年代後半に見られたような、異常な価格高騰はなくなっています。自分の価値観とあった企業に出会える!25卒のスカウト登録はこちら
日本の石油会社の現状
さて、日本の石油会社はどうなっているでしょうか。現在、JXTGエネルギー(ENEOSのブランドで展開している石油会社)、経営統合が予定されている出光興産と昭和シェル石油、コスモ石油の、主に3つのグループが、製油所を持つ「石油元売り」と呼ばれています。かつては10を超える会社があったのですが、合併などによって経営合理化が進み、集約されてきました。石油会社の再編・統合の契機となったのは、1996年3月末の特定石油製品輸入暫定措置法(特石法)廃止です。特石法によって、ガソリンなど石油製品の輸入は石油大手に限られていましたが、同法廃止によって輸入が自由化されました。自由化により価格が下落し、石油業界各社の利益を圧迫。石油会社の再編・統合が進みました。
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日本の石油会社の課題
日本の石油会社の現在の課題は、大きく2つあります。①原油の生産など上流事業への関わりが弱い
上流事業とは、石油の権益取得、探鉱・開発から生産にいたるまでの事業を指します。JXTGグループではベトナムで海底油田の開発を行っていますが、生産量は中東やロシア、米国と比較して約3%程度しかなく、供給力としても限られていると言えるでしょう。ほかにも油田開発を中心に事業を行っている、国際石油開発帝石、石油資源開発といった会社もあります。また、総合商社も海外の油田開発に参画し、権益を得ています。しかし、石油メジャーと比べて生産の権益は小さい ため、上流部門に大きな影響を与えるにはいたっていません。②ガソリンなどの石油製品の需要減
自動車の燃費向上や燃料の天然ガス化などで石油の販売量が下がり、古い製油所に十分な投資ができず、設備を持て余しているという課題も抱えています。前述のように石油販売量が下がっているうえに、特石法廃止以降は利幅が小さくなったため、人口減が深刻な地方を中心に、ガソリンスタンドの数は減少しています。また、LPガス販売店も都市ガスの拡大と省エネ化やオール電化住宅の普及、LPガス自動車の減少などの影響で、減少傾向にあります。もっとも、LPガス販売店の場合、オール電化設備や太陽光発電設備などさまざまな商材を販売する事業者もおり、ガソリンスタンドが置かれている状況とは少し異なっています。
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石油業界の今後
では、石油業界は今後、どうなっていくのでしょうか。・脱石油への取り組み
地球温暖化対策として、石油を含む化石燃料の使用の抑制が推進されるため、脱石油が大きなテーマとなります。石油メジャーも含め、 多くの石油会社が、太陽光発電やバイオマスなど再生可能エネルギー、水素エネルギーなどに取り組み始めています 。日本では、昭和シェル石油の子会社であるソーラーフロンティアが太陽光発電事業を展開しています。また、事業の多角化も進められています。例えば、JXTGエネルギーはENEOSでんきのブランドで電気事業の拡大を進めています。いずれにせよ、将来は総合エネルギー企業として生き残っていくことが必要条件 です。
・アジアを中心とした海外展開
日本では人口減も背景に石油の需要減が続きますが、アジアに目を転じれば、当面は石油の需要は伸びていくでしょう。出光ではベトナムで小売事業に参画しています。今後も原油の精製や輸出、小売などの事業の参画には可能性があります。
・石油製品小売の今後
小売側は需要減への対応が大きなテーマです。ガソリンスタンドは将来、人口減に加えて電気自動車の普及で経営環境の悪化が予想されます。そのため、万が一の災害に備えた、地域のエネルギー拠点として生き残る方法が模索されています。かつて、コンビニエンスストアを併設するなどの多角化の取組みが行われたことがありましたが、あらためてこうした取組みは必要かもしれません。LPガス販売店は商材の多様化を進めています。「電気」「通信」「保険」「水」など、卸売り会社も含め、多角化が進んでいくことでしょう。定期的な訪問による設備点検を行っていることなどから、電力会社や通信会社と比べて、お客様に近いという特徴を生かした事業者が成長していくと考えられます。
石油業界にも関わりがあるプラント業界については「プラント業界の現況・今後の動向について」も参考にしてください。
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本記事の監修者
淺田真奈(あさだまな)
大学時代は接客のアルバイトを3つかけもちし、接客コンテストで全店1位になった経験をもつ。新卒では地方創生系の会社に入社をし、スイーツ専門店の立ち上げからマネジメントを経験。その後、レバレジーズへ中途入社。現在はキャリアチケットのアドバイザーとして、学生のキャリア支援で学生満足度年間1位と事業部のベストセールスを受賞し、リーダーとしてメンバーのマネジメントを行っている。