百貨店業界の現状と今後の動向について

このページのまとめ

  • 百貨店は仕入れ形態によって粗利率が変わる
  • 売上高は右肩下がり
  • 専門店化、ショッピングセンター併設、オムニチャネル戦略などの変革が迫られる

三越、伊勢丹、高島屋などで知られる「百貨店」。良質・高級な商品が華やかに陳列されている空間に足を踏み入れた瞬間、胸が高鳴る高揚感を抱く方もいるでしょう。

経済産業省によると、百貨店の定義は下記のように定められています。

“産業分類「561百貨店,総合スーパー」とは、衣、食、他(=住)にわたる各種商品を小売し、そのいずれも小売販売額の10%以上70%未満の範囲内にある事業所で、従業者が50人以上の事業所をいう。”

つまり、百貨店と読んで字のごとく、さまざまなジャンルの商品、多くの従業員を抱える小売業ということです。

ショッピングセンターとよく混同されますが、日本ショッピングセンター協会によるショッピングセンターの定義は下記のとおりで、小売業ではなく賃貸による収益を得る商業施設を指します。

“ショッピングセンターとは、一つの単位として計画、開発、所有、管理運営される商業・サービ ス施設の集合体 で、駐車場を備えるものをいう。”

今回は、そんな百貨店業界の現状の裏側から今後の展望までご紹介します。

本記事の執筆者

山中健(やまなか・たける)

山中コンサルティングオフィス代表。大手百貨店、外資系ブランド、大手経営コンサルタント会社を経て、コンサルタントとして独立。ファッションビジネス、百貨店、SC(ショッピングセンター)業界などにおいて、マーケティングやMD、リテールのコンサルティングを手掛ける。

 

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百貨店業界の業態と収益の考え方

百貨店は、立地やグレードによって業態が分かれます。立地では「都市型百貨店」と「地方百貨店」、グレードでは「中高級百貨店」と「大衆百貨店」に大別できます。

・都市型百貨店
・地方百貨店

・中高級百貨店
・大衆百貨店

百貨店は、小売業。仕入れた商品の売上から「仕入れ原価」や「ロス(値下げ、万引き、紛失など)」を引いたのが粗利となり、人件費や宣伝費、賃料、包装費などの「経費」を引いて、残った金額が利益となります。

注意点としては、「仕入形態」によって粗利率が異なること。仕入形態は主に3つに分けられます。

完全買取

仕入先から商品を買い取る形態。仕入先の過失がない限り、返品することができないのが特徴です。インポート商品やブランド商品など、在庫が確実に残らない売れ筋商品に適用されます。

委託買取

仕入先から商品を買取りますが、返品や交換ができる形態。販売・在庫管理を百貨店が行う場合と、仕入先が派遣した販売スタッフが行う場合があります。

売上仕入れ(消化仕入れ)

売れた商品のみに仕入れ代金を支払う形態。仕入れ段階では仕入先に対する支払いは発生しません。仕入先が販売スタッフを派遣して、販売・在庫管理をおこなう場合があります。

一般的に「完全買取」→「委託買取」→「売上仕入れ」の順に粗利率が高くなります。
仕入形態はこれら3種類のいずれかで、百貨店・バイヤー側が責任を問われる完全買取は、非常に少ないのが現状です。

百貨店業界の採用選考を受ける上で、仕入形態の知識は最低限覚えておきましょう。百貨店や担当店舗がどのような仕入形態を多く採用しているかによって、仕事の内容も異なるからです。

 

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百貨店業界の現状と課題

百貨店業界の売上の現状は、残念ながら右肩下がりです。「百貨店協会データ」によると、2018年の売上は5兆8,870億円(前年比-0.8%)となっています。

出所:日本百貨店協会

しかし、近年では、インバウンド(海外旅行客による買上)のおかげで復調する傾向も見られ、2018年には過去最高の免税売上高を記録。2018年の免税売上高3,396億円(前年比26%増)で免税品売上は約6%にシェアアップしています。

日本の百貨店は、これまで国内需要が力強いのが特徴でしたが、今後はさらにインバウンドが占める比率が増えると推測されています。
しかし、為替レートや中国の関税政策などによって上下するため、不安定な業界であることは否めません。

そもそも、百貨店を支えてきたのは、現在の60歳以上、いわゆる団塊の世代と呼ばれる人たちが中心です。この世代が高齢化によって人口減少と購買意欲の減退を招き、売上が減少し続けています。

一方で、若い世代は2000年から増えた「ショッピングセンター」に移行、さらに近年では、「ネット通販」や「フリマアプリ」などの需要が高まり、百貨店の厳しい立場は今後も変わらないと予想されます。実際、ここ数年で百貨店大手の地方店や郊外店の撤退が続いており、大都市の基幹店(それぞれの百貨店の中心となる店)や地方中核都市の一番店以外は成立しないとされています。

 

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百貨店業界の今後の動向について

厳しい状況に置かれている百貨店業界。今後、どのような戦略をとっていくべきなのでしょうか。具体的には以下4つの考え方が挙げられています。

専門化戦略

百貨店内の品揃えを特定の客層やテーマ、商品カテゴリーに絞っていく方法です。たとえば、「新宿伊勢丹 メンズ館」や「阪急メンズ東京」など。既存業態、既存店舗ではこの戦略をとっていくしかありません。

ハイブリット百貨店戦略

ショッピングセンターと百貨店の融合を意味します。既存百貨店の中に、テナント(貸借スペース)を増やし、賃料で収益改善を図るというものです。たとえば、「マルイ」、「旧プランタン銀座」、「池袋東武」、「立川髙島屋」など。どちららかというと苦戦してきた店が、減収増益を狙って取り組む方法です。

また、新規開発でショッピングセンターを作ったり、ショッピングセンターを併設するという積極派もあります。ヒカリエの中の「シンクス(東急百貨店)」、名古屋の「タカシマヤゲートタワーモール」、「日本橋髙島屋SC」などが事例に挙げられます。

専門店戦略

百貨店が専門店を開発してチェーン展開する方法。百貨店の強みである平場(特定の商品やテーマで自社編集した売場)を専門店化してショッピングセンターや駅ビル、他の百貨店に出店していくというものです。

たとえば、伊勢丹による「イセタンミラー(化粧品専門店)」、東急百貨店による「フードショー(食品物販店)」、大丸松坂屋による「シジェーム(セレクトショップ)」、京王百貨店による「ミ・デゥー(アパレルブランド)」などが挙げられます。

オムニチャネル戦略

オムニチャネル(店頭、ネット、カタログなど、チャネル「流通経路」を問わない)を採用する方法です。たとえば、Web事業に積極的に取り組んでいるのが「マルイ」と「三越伊勢丹」。

業界先駆者である「マルイ」は元々雑誌通販などをしており、通販に強い百貨店でした。2006年にECサイト「マルイウェブチャネル」を開設した後、ECで買ったものを店頭で試着・購入できるクリック&コレクトをいち早く導入したのもマルイです。

「三越伊勢丹」も10年以上前に開設された「伊勢丹オンラインショッピング」を立ち上げたり、Amazonとの協業などさまざまな挑戦をしてきました。そのほか、SNSやスマートフォンアプリとコラボしてキャンペーンを展開している百貨店もみられます。

AmazonやZOZOTOWNのようなネット大手事業者に遅れをとっていること、仕入先が他社のECサイトや直営サイトで販売していることなど、脅威要素はあります。しかし、中元歳暮などのギフトニーズ、カタログやテレビ通販などに強みを持っている企業が多いのが百貨店側の強み。また、Webでの売上はまだまだ未知数がゆえに、今後はオムニチャネル戦略を採用するケースが増えていくと予想されます。

以上、今後の戦略について紹介しました。売上が右肩下がりの百貨店業界ですが、インバウンド需要が期待されること、立地、歴史、思想といった特徴を活かした戦略を採用することなど、まだまだ伸びしろのある業界であることも確かです。

百貨店業界に進む場合は、今後の展望をどのように考えているのか、それに対して、自分自身がどのようなことを貢献できると思うか、企業研究と自己分析に取り組むのがキーポイントになるはずです。

 

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本記事の監修者

淺田真奈(あさだまな)

大学時代は接客のアルバイトを3つかけもちし、接客コンテストで全店1位になった経験をもつ。新卒では地方創生系の会社に入社をし、スイーツ専門店の立ち上げからマネジメントを経験。その後、レバレジーズへ中途入社。現在はキャリアチケットのアドバイザーとして、学生のキャリア支援で学生満足度年間1位と事業部のベストセールスを受賞し、リーダーとしてメンバーのマネジメントを行っている。

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