教育業界の現状・今後の動向について

このページのまとめ

  • 少子化しているものの、一人あたりの教育費は上昇傾向にあり、市場規模は堅調に推移している
  • 今後の課題は、センター試験廃止と台頭するeラーニングの対応
  • M&Aやフランチャイズ化で業界構造が変化している

生徒の夢・目標を実現させるため、伴走する講師とのドラマが生まれる教育業界。誰かを応援すること、勉強を教えることが好きな人にぴったりの業界かもしれません。しかし、そもそも、学習塾と予備校にはどのような違いがあるのでしょうか。また、少子化が危惧されるなか、どのような影響が起こっているかも気になる点です。今回は、そんな教育業界の現状の裏側から今後の展望までご紹介します。

本記事の執筆者

後藤高浩(ごとう・たかひろ)

株式会社ジー・エス代表取締役。GS進学教室代表。都内の大手進学塾で25年以上にわたって講師を務め、本部長・取締役などを歴任。現在は自分で塾を運営する傍ら、学校・塾のコンサルティングや、講演・研修・執筆など、教育・受験に関する啓蒙活動に携わっている。著書は『子どもの幸せは親次第!』(ギャラクシー出版)ほか。雑誌・ウェブサイトへの寄稿多数。

 

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教育業界の業態

業界の違い:学習塾と予備校

教育業界は、一般的に「学習塾」「予備校」の2つに分類されます。

学習塾は、学校に通いながら、学校内容の補習や受験の準備をするために通うもの。指導の目的によって、学校の学習を補完する「補習塾」、難関校の進学を目指す「進学塾」、その両方を対象とした「総合塾」などに分類されますが、その区分けは厳密なものではありません。

対して、予備校は、高校を卒業したあとに、大学受験の準備をするために通うためのものとなります。しかし、少子化や大学の定員増による浪人生の減少に伴い、近年では校舎閉鎖やコース縮小を行う予備校が増えてきています。業界最大手のひとつ「代々木ゼミナール」が、27校のうち20校を閉鎖する決断をしたのは記憶に新しいです。

近年、従来の予備校が小・中学生の指導をおこなうようになったり、学習塾でも大学受験コースを併設したりする場合も多く、学習塾と予備校の垣根がなくなりつつあるのが現状です。

指導形態の違い:集団指導と個別指導

指導の形は、大きく「集団指導」「個別指導」の2つに分類されます。

集団指導は、1人の講師に対して、複数の生徒を大きな教室で指導する形。一般的には、学校と同じような形で、1クラスにつき数人〜十数人の生徒を指導します。対して、個別指導は、1〜3人の生徒を個別ブースなどで指導する形。学年や科目も異なる生徒を同時に指導する場合もあります。

さらに、近年では「自立型指導」と呼ばれる指導の形も増えています。生徒たちはプリントやパソコン・タブレットなどで自習を行い、分からないところを講師に質問したり、学習の進め方を相談したりする形です。なかには「教えない」ということをアピールポイントにしている塾も存在しています。

近年の傾向としては、個別指導塾を中心に「フランチャイズ化」が進行しています。日本フランチャイズチェーン協会が「FC統計調査」で発表している学習塾・カルチャースクールのフランチャイズチェーンの売上規模と、学習塾全体の市場規模を照らし合わせると、2016年度の売上ベースで、塾予備校のフランチャイズ占有率は約50%となっています。

 

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教育業界における収益の考え方

集団指導と個別指導では、収益構造が異なります。集団指導の塾では、採算分岐点を超えれば、生徒数の増加に比例して収益も増える構造です。一方で、設備費や人件費の割合が高いので、ある程度の生徒数が必要となります。時間講師が担当している塾もありますが、その割合は多くありません。

対して、個別指導は、集団指導と同じ構造では収益が増えません。生徒数が増えれば、講師の数と人件費も増えてしまうからです。そこで、大手の個別指導塾では、大学生講師を(集団指導と比較して)安価な時給で大量に採用し、運営をしているところが増えています。それでも採算が取れない場合は、授業料の単価を上げたり、講師1人に対して生徒2〜3人という体制をとったりして収益の改善を図ろうとする塾もあります。

両者を見比べてみると、前述した「自立型指導」は、講師1人に対して数十人の生徒を指導できるため、とても優れた収益構造といえます。

 

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教育業界の現状

2017年度の学習塾・予備校の市場規模は、2016年度と比較すると「0.7%増」の9690億円となっています。過去5年間の推移をみても、9360億円→9380億円→9570億円→9620億円→9690億円と、堅調に推移しているといえるでしょう。

少子化は全国的に進行しています。しかし、東京都心部など、子どもの数が増えている地域に集中し出校して、生徒数を増やしている塾も存在します。また、どの地域でも難関校を目指す子どもの数は一定数存在するため、そのような家庭は教育費(補助学習費)の支出額を減らさない傾向がみてとれ、特に高等学校において増加傾向にあります。

出所:文部科学省

2019年1月現在、塾・予備校で株式上場している企業は19社。校舎を増やし、業務拡大によって売上を伸ばしている企業が多くなっています。しかし、各企業の有価証券報告書によると、校舎増の初期投資や人件費高騰により、経常利益ベースで見ると苦戦している企業も少なくありません。

塾・予備校の株式上場企業一覧

成学社、市進ホールディングス、明光ネットワークジャパン、秀英予備校、クリップコーポレーション、リソー教育、早稲田アカデミー、城南進学研究社、京進、東京個別指導学院栄光ホールディングス、LITALICO、スプリックス、学研ホールディングス、進学会ホールディングス、学究社、昴、ベネッセホールディングス、ステップ

 

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教育業界の課題

大学入試制度が大きく変わる

最も大きな課題は、2021年度から大学入試の制度が大きく変わることです。センター試験が廃止となり、「大学入学共通テスト」が実施されます。また、最初は国語・数学、数年後は理科・社会も数十字程度の記述問題が出題され、英語については「英検」「TOEIC」「TOEFL」など、民間試験の点数を使用することが決まっています。

さらに、高校入試・中学入試の問題にも思考力重視・記述問題増加などの変化がみられるため、早い段階から指導の見直しが必要となります。また、学習指導要領(※)の改訂により、小学校での英語やプログラミング学習がスタート。これらのような、受験・教育を取り巻く変化に対応できる塾、対応できない塾によって、その評価が分かれるかもしれません。

※学習指導要領…文部科学省が定めた、各学校での教育課程(カリキュラム)を編成するための基準。全国どの地域で教育を受けても、一定水準の教育を受けられるように定められている。

講師の指導力が問われる

学習塾の業界内部に目を向けると、とくに大手塾において、講師の世代交代を上手く取りきれるかも大きな課題です。1990年代前半にバブルが弾けて以降、新卒社員の採用を凍結していた塾も少なくありません。結果、経験を積んだ40代の講師が少ない塾も多いようです。

10年前から新卒採用に注力するようになった塾も増えてきましたが、50代以上のベテラン社員と30代前半以下の若手社員が中心となって運営している学習塾は、10年後に向けて、若手講師を鍛えるとともに、中途採用で即戦力講師の採用を積極的に進めています。いずれにしても、学習塾・予備校においては、講師力がもっとも大きい差別化要因であることは間違いありません。

 

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教育業界の今後

少子化に伴う影響

前述したとおり、東京都心部などの一部の地域を除いて、今後も少子化が進行するのは確定的です。そして、学習塾・予備校にとって、最も大きいマイナス要因であり、限られたパイ(生徒数)の取り合いになることは間違いありません。

しかし、1つの家庭に対して子どもの数が減っていること、高齢化によって両親の祖父母も含めた「6ポケット(※)」の存在感が増していることもあり、1人の子どもにかける教育費を減らさない家庭が多いといわれています。将来の学歴を確保するため、小学生のうちから難関校を目指すという「受験熱」は、ひと昔前と比べても決して冷めていません。

※6ポケット…両親2人+その両親(祖父母)4人=合計6人の財布(ポケット)からお金を投じ、子どもや孫に高額な商品を買い与える現象のこと。

また、各地域で公立中高一貫校の開校が相次ぎ、新たな受験(受検)者層が開拓されています。さらに、都道府県によっては私立高校の無償化で学校教育費の負担が少なくなり、その分を学習塾・予備校の通塾費に投じる家庭が多くなると予想されます。結果、通塾率は今後も少しずつ高まっていくでしょう。

大手塾の再編と中小塾の倒産

もう1つ確実視されているのは、大手塾の再編が進んでいくことです。実際、ここ数年で大きなM&Aや業務提携などのニュースが相次いでいます。

たとえば、「東進ハイスクール」が「四谷大塚」、「代々木ゼミナール」が「サピックス」、「Z会」が「栄光ゼミナール」といった、買収や完全子会社化を進めてきました。背景には、今後の少子化を危惧し、顧客層や事業部門を拡大したいという目的があります。

今後、このような再編は続いていくでしょうし、最終的には、大手銀行グループと同じように、大手塾が3〜4つのグループに統合される可能性もあるかもしれません。

一方で、少子化の影響を一番受けるのは、大手よりも中小塾です。実際、学習塾を経営している会社の倒産件数は、2017年に32件と過去最大を記録。そのほとんどが中小塾となっています。

出所:帝国データバンク

限られた子どもの取り合いというサバイバルな争いになると、広告宣伝費や人件費に余裕のない中小塾は圧倒的に不利です。今後、中小塾が生き残るためには、今まで以上に地域密着や生徒・保護者サービスの質の向上を打ち出し、何らかの尖った部分を売りにして、大手との差別化を図る必要があります。

eラーニングの普及

大手塾・中小塾にとって、今後の脅威となると予想されるのは「eラーニング」などのICT教材(※)の普及です。「塾はいらない」と主張し、パソコン・タブレット・スマートフォンによる学習や受験対策を提供している企業があり、年々市場を拡大しています。

※ICT教材…ICT(Information & Communication Technology=情報通信技術)を用いた教材。生徒はタブレット型端末で勉強し、講師は電子黒板などで指導するなど、教材・副教材がデジタル化したものが挙げられる。

出所:矢野経済研究所

今後も、タブレットなどの普及、通信技術の向上、クラウド環境の進化、AIによる学習機能の付加などによって、eラーニング市場は確実に拡大していくと予想されます。

 

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AIの時代だからこそ、人との繋がりが重要視される

今後は、eラーニングと講師による指導を組み合わせ、効率的な指導をおこなう塾が増えるでしょう。ICT教育との融合が、塾の生き残りをかけた大きなテーマになることは間違いありません。

しかし、このような時代だからこそ、「人と人との触れ合い」「瑞々しいコミュニケーション」が重要な要素となってきます。実際、「分からないことをすぐに聞ける」「保護者も含めて困った時にすぐに相談に乗ってもらえる」といった、塾の最大の利点を、生徒・保護者は依然として求めています。生徒と講師の絆を大切にする「塾の原点」は、より注目されることでしょう。

 

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本記事の監修者

淺田真奈(あさだまな)

大学時代は接客のアルバイトを3つかけもちし、接客コンテストで全店1位になった経験をもつ。新卒では地方創生系の会社に入社をし、スイーツ専門店の立ち上げからマネジメントを経験。その後、レバレジーズへ中途入社。現在はキャリアチケットのアドバイザーとして、学生のキャリア支援で学生満足度年間1位と事業部のベストセールスを受賞し、リーダーとしてメンバーのマネジメントを行っている。

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