やりたいことがなくていい。今できることをして力を貯金せよ~ぬまっち先生の新卒時代

自己分析をしたもののやりたいことが見つからない、自分が働くイメージが浮かばない……という就活生に向けて、社会で活躍する人から「社会に出たときのはじめの一歩」を語ってもらうインタビュー。

今回話を聞いたのは、「ぬまっち先生」の愛称で親しまれる、東京学芸大学附属世田谷小学校の沼田晶弘教諭。
 

大学職員などを経て、都内の小学校で教壇に立って13年。音楽に合わせて掃除する「ダンシング掃除」や「さんまパーフェクト骨抜きフェス」など、子どもたちの自主性を引き出す型破りな授業が多くのメディアで取り上げられ注目を集めています。

業界の枠を越えて多くの人に知られるほどの活躍を続ける沼田先生、どんな新卒時代を過ごされたんですか?
 

沼田晶弘(ぬまた・あきひろ)

1975年東京生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。

東京学芸大学教育学部卒業後、インディアナ州立ボールステイト大学大学院で学び、アメリカ・インディアナ州マンシー市名誉市民賞を受賞。スポーツ経営学の修士を修了後、同大学職員などを経て、2006年から東京学芸大学附属世田谷小学校へ。
児童の自主性・自立性を引き出す斬新でユニークな授業が読売新聞「教育ルネッサンス」に取り上げられて話題に。著書に『ぬまっちのクラスが「世界一」の理由』、『「変」なクラスが世界を変える』(いずれも中央公論新社)など。

 将来やりたいことは意識していなかった大学時代

――小学校の先生って新卒で学校を出てから、そのまま学校で働く方が多い印象があります。沼田先生は他のお仕事も経験されているんですね。

沼田 おっしゃるとおり、オールドルーキーなんです。海外の大学院を出て大学職員になってから塾講師を経て、ここ(学芸大学附属世田谷小学校)にいます。

ファーストキャリアは大学職員。仕事も学生対応や海外からの来客アテンド対応が中心でした。

でも大学院時代にもアシスタントの仕事をしていたから、当時は「働き始めた」という感触はあまりなかったですね。大学にいる時間が伸びたくらいだし。

当時は将来やりたいことも特に考えていませんでした。「帰ったら何しようかな?このままアメリカにいるかなぁ」とかそんなレベルでした。

――そのあと日本に戻られたと。日本の大学にいらっしゃったんですか?

沼田 帰国後に大学講師をしていましたが、学内のトラブルに巻き込まれて、大学を去らないといけなくなりました。

詳しくは語りませんが不本意な形での退職だったし、当時は「続けたい」という気持ちもあったから、本当に悔しかった。

でもあのまま仕事を続けていたら、うだつの上がらない普通の奴になっていたでしょうね。
 

――人生のターニングポイントだったんですね。


沼田 たしかにターニングポイントの1つではありましたが、「失敗経験」ではないと思っているんです。

失敗した理由にきちんと向き合って、同じことが起こらないように工夫する。そして成功できたら、次の良いサイクルに入れる。成功してはじめて「失敗」が語れますからね。

それに今は自分が頑張っているっていう自信があるから、当時の失敗はもはや糧なんです。

――そして塾講師になると。

沼田 塾には2年くらいいました。学生時代にも塾講師をやっていたんですが、トークだけで引っ張れると思ってました。

当時は授業を盛り上げて「楽しく塾に来てもらうこと」に注力していました。塾に来ればそれなりには勉強してくれるから、おのずと伸びてくれると思ってました。実際、生徒の成績も上がってたんですよ。「俺、天才か」くらいに思ってた(笑)

仕事にやりがいは感じていましたが、塾の授業は夕方から夜。生活が不安定な塾講師でなく、学校の教師を目指すことになります。

 7歳にPDCAもアンガーマネジメントも教える


――小学校の先生になってから、心境の変化はありました?

沼田 小学生は大丈夫かなという心配と不安はありました。しかし実際やってみると、いい意味で「子供ってすごいな」と思わせられることが多く、戸惑うことなくできました。

着任時から「子供がどうしたらやりたくなるか」、「子供がどうしたら自分からやるか」を考え続けてきたのですが、いまでも変わりません。

――「授業がユニークだ」っていろいろなメディアで話題になったりもしてますよね。ダンシング掃除とかイライラコップとか。
 
沼田 ネーミングを褒めていただけることは多いのですが、僕自身は実はあまり意識していなくて。Twitterでバズったりしてる言葉も授業中に適当に考えたやつなんです(笑)

報連相やPDCAとか、メジャーな言葉も使ってますよ。
 
――PDCAを小学生に伝えているってこと……?

沼田 大人に使える理論が、子供だと使えないなんてことはない。「PDCA」も、噛み砕いて説明すれば小学1年生でも分かるようになるんです。

Pは計画、Dはやってみる、Cは振り返り、Aはもっと良くする。これをくるくる回してもっと良くしたら、新しい計画が立てられる……ってふうに。

――たしかに。

沼田 そのあとは「今日はPDCA型の授業をします」って言っても通じる。C(振り返り)をせずにDルーパー(looper、PDを繰り返している)になってるからダメね!とか言ったりして。
 

「"ゴルフのスイングがいまいちだったけど、首をかしげてグリップを握り直して何も考えずにまたスイングをするお父さん"はDルーパーですね」

アンガーマネジメントも「イライラコップ」って言ったら伝わった。要は、小学生たちにも伝わる言葉で伝えているというだけの話です。

 「無意識の忖度」をやめて誰も苦しまないシステムを作ればいい


――「教えられる側にとってわかりやすく伝える」のは、ずっと心がけてこられたことなんですか。

沼田 そうですね。大人に使えるPDCAが子供にも使えないわけがない、って話をしましたが、大人と子供の差は知識量と「無意識の忖度」があるかないかの2つだけです。
 

入学祝いの模造紙に描かれたサンマの絵。「きれいに魚を食べられないし、サンマが嫌い」という子供たちの声から着想を得て「さんまパーフェクト骨抜きフェス」を開催した。家でなかなか魚を食べなかった子供たちも、このプロジェクトの"事前練習"として、数匹のサンマを家でたいらげてきたという

――無意識の忖度、ってどういうことですかね?

沼田 自分の経験や知識をもとに、無言のうちに他人同士が気を使い合うこと、でしょうか。

1年生を担当していたとき、子どもたちはよく教室のドアを開けっ放しにして外に出るんですよ。

これまで担任してきた高学年の児童は「暑いから閉めて」って言えば閉めてくれたし、無闇に開けっ放しにすることもなかった。1年生も同じように言えば扉を閉めますが、閉めろって言われた理由が分からないから、また開けっ放しにしてしまう。

子どもたちによくよく話を聞いてみると「自分のあとも、教室に人が入って来ると思ったから」「誰かが開けてそのままだったから、閉めなかった」って理由があったり、「開けたら閉める」って言われたから閉めていただけだった。

「冷房が効いている部屋の冷気が逃げないように閉める」って子はいなかったんです。

――「最適な行動をとるだろう」って無意識のうちに相手に期待しているってことですね。

沼田 じゃあ「(自分が)開けなくても閉める」を合言葉にしよう、って言ってからはぴしっと扉が閉まるようになった。

そしたら今度は、換気のときとか僕がわざと開けているときも閉まるようになってしまったんです。
 

ふくろうのマークがドアに付いているときは「わざと開けているから、閉めなくていいよ」というサイン

1年生には「ちゃんとして」は通じない。でもあいまいな言葉を使わず、はっきり分かりやすく伝えるようにしたり、システムを作れば解決できる問題もある。

こうした忖度をなくすことを「ちゃんときちんと撲滅運動」って名付け、今でも意識するようにしています。

――問題を起こさず、無理なく運用できるシステムを考えて改善していく、ってビジネスの現場みたいですね。

 やりたいことがなかったら「とりあえず貯金する」感覚で今できることをせよ

――それでは最後に、就活生へのメッセージをうかがいたいのですが……
「やりたいことが分からない」という就活生が目の前にいたら、どんなアドバイスをされますか?


沼田 実際、就活生や社会人一年目のときに「将来どうなりたい?」って聞かれても、答えるのは難しいんじゃないかな。

僕自身も明確なビジョンは持っていませんでした。その分頂いた依頼は断わらず、なんでも挑戦してみた。一見関連がなさそうな出来事でも、回り回って自分の役に立っているのを感じます。

だから「今できること・今できそうなことをやっていく」に尽きると思います。欲しいものがなくても貯金をするように、自分の力を蓄えておけばいいんです。

「将来のためにお年玉を貯金する」って言う子供もいますけど、小学生が1年かけて貯金した1万円は、大人になったら一晩でなくなってしまう。「だったら今のうちに使って、100%の思い出に変えたほうがいい」という話をしたことがあります。

やりたいことがある人はその規定路線に向かってやっていけばいいし、やりたいことがない人も、今自分ができることをこなしていけばいい。僕自身、ビジョンを持たなかったことで後悔したことはありません。
 

イスに座ることで、子どもたちと目線の高さを近づけている

 「やりたくない」ことにもフィットする過程で学びがある


――できる・できないではなくて「やりたくない」仕事をすることになる可能性もありますよね。

沼田 フィットしようとして自分が頑張ることで伸びるところもあるじゃないですか。

僕自身、希望を出してもいないのに1年生を担任するのが嫌で嫌で仕方なかった。低学年は苦手だという自覚もあって、まわりからも「1年生できるの?」とか言われたし(笑)

でも苦手だからって適当にするわけにはいかない。ぶーぶー言いながら正面から向き合っていったら、新たな気づきもあった。

やりたくないと思っていた仕事だけど、「ちゃんときちんと撲滅運動」のような新しい技を身につけられたんです。

だからあなたの「やりたくない」っていうのも、もしかしたら、勝手に合わないと思ってるか、まだ練習不足だから苦手というだけかもしれません。

まずはやってみたらいい。何度かやってみたうえで、やはり苦手と感じるならそういう自分を認識して、他でうまくできるようにやればいいと思います。
 

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