日々、さまざまなメディアを通して目にする「ニュース」。そんなニュースを作るのは、テレビ局や新聞社といったマスコミだけではありません。企業のPR支援を行うPRプランナーも、ニュースを作る仕事なのです。
今回取材したのは、ビルコム株式会社のPRプランナーである星裕方さん。仕事内容ややりがいについて伺うと、PRプランナーだからこその魅力が見えてきました。
<Profile>
ビルコム株式会社
メディア局 部長 PRSJ認定准PRプランナー
星裕方(ほし・ひろのり)さん
2017年4月、ビルコム株式会社に新卒社員として入社。メディア局に配属され、PRプランナーとしてクライアント企業のPR支援経験を積む。現在は、メディア局の部長職を務める。
PR戦略の設計から実行、効果測定まで、総合的に企業のPRをサポートする、戦略PRコンサルティング会社。インターネットやSNSの普及により変わりゆくコミュニケーションの最新動向を把握し、メディアに向けた発信はもちろん、統合型デジタルマーケティング、インフルエンサーを活用したPRを支援。https://www.bil.jp/
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クライアントとメディアの架け橋。PRプランナーの仕事とは?
――御社の事業や、PRプランナーである星さんの仕事内容について教えてください。
弊社のPRプランナーは、クライアントの製品やサービスをニュースとして発信いただけるよう、テレビ局や新聞社といったマスメディアとコミュニケーションを取ります。
私の主な仕事内容は2つ。1つ目はクライアントとPRしたいポイントについて打ち合わせして、企画を立てること。2つ目は立案した企画をメディアにニュースとして発信いただけるよう、企画を提案することです。言うならば、クライアントとメディアの架け橋のようなポジションですね。
そのほか、取材のセッティングやPRイベントへのメディア招へいも行います。
――どんな業種のクライアント企業がいるんですか?
食品・ソフトウェアメーカーやコンサルティングファーム、人材サービス企業など、さまざまです。業務内容や期間によって担当するクライアント数が変わり、私は平均の5〜6社を担当しています。
――とある1日のタイムスケジュールを教えてください。
弊社はフレックスタイム制度があり、午前11時までなら出社は何時でもいいのですが、私はだいたい9時に出社しています。出社してまず取り掛かるのが、メールチェックですね。ひととおり返信が終わったら、クライアントに向けた資料作りや、メディアに向けた企画書作りをしています。
昼前から夕方にかけては、打ち合わせに出かけることが多いですね。クライアントと「4月は新卒入社の時期だから、新入社員向けの企画を作りませんか?」とPRプランの打ち合わせをしたり、詰めた企画をメディアに提案しに行ったり。
夕方頃に会社へ戻ってから、翌日の打ち合わせの資料作りをし、退社しています。仕事後は、編集塾に通ったり、趣味のギターを練習したりしていますよ。
新卒で入社してから3年、最初の頃と比べたら随分余裕を持って業務に取り組めるようになりました。その中で、私がPRプランナーとして成長できたのは、とあるプロジェクトがきっかけだったかもしれません。
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ターニングポイントは、正座してテレビを見た「新卒1年目のあの日」
――PRプランナーとして成長を感じたエピソードがあれば教えてください。
私のターニングポイントとなったのは、新卒1年目で担当した、とある音声翻訳機のメディア向け製品発表会です。これまでソフトウェアを提供してきた企業が、初めてハードウェアにチャレンジしたことで、大きな注目を集めました。
そんな重要な発表会で、私はメディア担当としてチームに参加することになりまして。「多くのメディアに取り上げてもらう」ことがミッションの1つだったんです。この発表会には芸能人の出演が決まっていたので、昼間のワイドショーなど芸能取材班がいるメディアには引きがありました。
しかし、夜の報道番組には「経済の動き」として提案する必要があります。「どんなテーマであれば、取材したくなるだろう?」と企画を考えるのが難しかったですね。
そこで「音声翻訳機が発売される」だけで終わらせず、「外国人観光客が増えているからこそ、音声翻訳機の必要性が高まってくる」と、世の中の動きに合わせた切り口で提案しました。結果、テレビ番組や新聞、Webメディアなど、100名以上のメディアが取材に来てくださったんです。
――メディア向け製品発表会は「メディアが来ないと成立しない」ことから、メディア担当だった星さんの責任の大きさが伺えます。
はい、大きなプレッシャーがありましたね。失敗できないから、とにかく上司に質問しながら、手取り足取り教えてもらいました。メディア招へいだけでなく、「翻訳機を使いたい」「社長を取材したい」といった各メディアの要望を取り入れた、当日のセッティングもPRプランナーのミッションでして。発表会が終わるまでは気が抜けませんでしたね。
発表会後、最初のTV報道が当日の夜11時から放送されることが決まっていたので、テレビの前で正座して見ました(笑)。テレビ越しに発表会を見たときは、もう、ジーン……と感動しましたよ。自分が企画提案したものが、メディアを通して全国の人に届いていく。この社会的インパクトを起こせるPRプランナーは、影響力が大きい重要な仕事だなと、改めて身が引き締まりました。
――自分の提案した情報が世の中に一気に広まるのは、かなりやりがいがありますね。
そうですね。発表会が終わったあと、クライアントからもうれしい言葉をもらいまして。「発表会にこんな多くのメディアが来てくれたことは初めてだった。会社としても大きな挑戦だったから、ありがとう」「予約販売台数が数日間で完売するくらい、反響があった」と声を掛けてもらえたんです。
私たちがPR支援をする根本の理由は、クライアントの製品やサービスの魅力を世の中に広めたいから。本質的な目的を達成できて「ああ、本当に良かった」と思いましたし、その経験が大きな糧になっています。
この体験をきっかけに、自分の「PRプランナーとしての知識や経験値」がグンとアップしたんです。当時築けたフレームがあるからこそ、「こんな切り口で企画を立てよう」「この準備は今のうちにしておこう」と業務をスムーズに回せるようになりました。
――PRプランナーとして4年目に突入した現在、仕事をするうえで意識していることは何ですか?
自分の足を使って、企画のヒントを探しにいくことですね。
机に向かってパソコンを開き、インターネットに載っている情報だけを参考にしていると、新鮮味があるオリジナルの企画は作れません。なぜなら、基本的にインターネットの情報は、誰かが見つけてきたネタや、誰かの主観が加わったネタだから。一次情報は数少ないのです。
一方で、いろいろな人と出会って見つけた情報を繋ぎ合わせたら、オリジナルの企画ができます。自分の足で探した情報同士が頭の中で繋がる瞬間は、たまらなく気持ち良い。そして、企画に宿る熱も大きくなるんです。
だから私は、できるだけ外に出るようにしています。例えば最近、休日に地元のNPO団体が主催する「ブルーハンズ」という駅前の清掃活動や、地域のコミュニティに参加していまして。そのイベントには、ビジネスを目的としていない人たちが集まるから、フラットな気持ちで情報交換ができます。そこには15年以上続く地域のお祭り発起人や、未来の組織論を提唱している経営者もいるのですが、今ではよく人生相談に乗ってもらう深い関係になりました。
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これからのPRプランナーに求められるのは「編集者視点」
――そもそも星さんは、どうしてPRプランナーになろうと思ったんですか?
実は最初はPR業界ではなく、ジャーナリストになりたくてマスコミ系を志望していました。PR業界を目指すようになったのは、大学でPRをテーマにした授業を受けたのがきっかけ。その授業で初めて「PR会社もニュースを作る仕事」だと知り、面白みを感じたんです。
就活ではいくつかのPR会社の選考を受け、内定をもらったビルコムに入社しました。今改めて考えてみても、「PRプランナーになれて良かったなぁ」と感じます。
――PRプランナーのどんなところに魅力を感じますか?
PRプランナーの魅力は、さまざまな業種のクライアントやメディアの方と話すので、世の中を俯瞰して見れるところですね。これは1つの業種だけを突き詰めるのではなく、いくつかの業種と関わるPRプランナーだからこその特権だと思います。
自分で得た情報をもとに「今日本で起きているこの問題を、あらゆる業種が、違うアプローチで解決しようとしている」と俯瞰して見る。そうすることで「今世の中で何が注目されているのか」という視点で企画を立てることができます。
これからの時代、クライアントが打ち出したい内容をそのまま企画にするのでは、足りない気がしていて。「クライアントの製品やサービスと、世の中で注目されているテーマを掛け合わせる」といった編集者視点を持ったPRプランナーが重宝されていくと思うんです。
――編集者視点、ですか。そういえば、1日のスケジュールを聞いたとき、編集塾に通っているとおっしゃっていましたね。
そうなんです、これからの時代のために編集力を鍛えたくて塾に通っています。
「編集者視点」を詳しく説明すると、例えば、お茶を販売するクライアントのPR支援をすると想像してみてください。クライアント的には「高級な茶葉を使っている」「温度管理を徹底して、上質な味を引き出している」といったこだわりの部分を伝えたいはず。そこで、一度立ち止まって考えるんです、「企業が伝えたいこだわりって、本当に消費者が求めている情報なのか」と。「世の中の動きに上手くフィットさせて、より多くの人に受け入れられるように組み立てられないか」と。
企画を作るときは、メディアの奥にいる消費者のことを考え、文脈を世の中の流れに乗せるのが重要です。だって、最終的に情報を届けたいのは、消費者なのだから。
「お茶のこだわりポイント」という“点”ではなく、「このお茶は、こんな視点から見ると、実は環境問題に繋がっている」と、あらゆる情報を“線”で繋げて発信していく。そのために必要なのが、編集者視点だと思っています。
――最後に、就活生にメッセージをお願いします。
どの職種にも共通することだと思うのですが、幸せに働きたいなら、旗を立ててみてください。「こんな世の中にしたい」という旗でもいいし、「こんなビジネスパーソンでありたい」という旗でもいい。自分の考えを発信すると、その考えに共感する人が集まってくれます。
同じ船に乗る仲間が増えると、目標に向かって前進するエネルギーが大きくなる。エネルギーが大きいほど、立てた旗にたどり着くスピードも速くなるし、大きな達成感を得られるんです。
PRプランナーを目指す人も、違う職種を目指す人も、ビジネスパーソンとしての旗を立てることを意識してもらえたらうれしいです。私の旗は「クライアントが製品やサービスに込めた“想い”に共感してくれる人を増やす」こと。これからも、私の旗の共感者を集めながら、PRプランナーとしての航海を楽しみたいですね。
取材・文/柏木まなみ
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