答えが見つからないときは、問題を変えてみよう。就活という問いに向き合うスゴ本6冊

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就活のハウツーは沢山あるけれど、「こうすれば内定がもらえる!」なんて正解があるわけない。けれども、就活という問題に取り組まなければならない。そして、どんなに探しても答えが見つからないときがある。そんなときは、問題を変えてみよう。そのヒントとなる本を紹介する。
本記事の執筆者
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Dain

古今東西のスゴ本(凄い本)を探しまくり読みまくるブログ「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」の中の人です。これは! というのがあったら、コメント欄やTwitterで教えてください(喜びます)。

 
目 次
  • 「問題」を変えてみる
  • 『問題解決大全』読書猿(フォレスト出版)
  • 『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』ふろむだ(ダイヤモンド社)
  • 『ルネサンスの世渡り術』壺屋めり(東京芸術新聞社)
  • 『名文どろぼう』竹内政明(文春新書)
  • 『斧』ドナルド・E・ウェストレイク(文春文庫)
  • 言葉は武器である
 

25卒の就活について相談したい

 

「問題」を変えてみる


どんなに頑張っても、解答までたどりつけない問題がある。

それは、解答できるようになるまでのリソースが足りなかったり、問題が問題の体(てい)をなしていなかったり、そもそも答えのない問題だったりする。「問題」という形で提示されているものの、実は解答が求められているわけではなく、「問題への取り組み方」が解答だったりすることもある。

しかし、質問されれば答えようとするのが人の性(さが)。学校の中でさんざんやってきたから、問題が出たら答えがある前提で考え始めてしまう。「問題1」の正解は「解答1」に書いてあり、それを最短・省コストで見つけるのが「優秀」とされたから。自分で考えるのが難しいなら、解答を覚えればいいし、パターン化して正解に近いものを引っ張り出すのもいい。ただし、これらが役立つのは、解答がある問題の場合に限る。

では、解答のない問題の場合はどうするか? あるいは、解答があるかどうかすら分からない問題の場合はどうするか?

そのときは、問題を変えてみよう。


解けもしない問題の答えを探したり、答えっぽいものを捻り出したりするよりかは、いったん問題を変えてみよう。問題を解いた「答え」が知りたいのか、解いた答えが示す何かが欲しいのか。問題となっている前提を解決したいのか、その状況を問題視している人への説明が求められているのか。

この記事を読むのは、来年に就職活動に取り組むか、もしくは就活の真っ盛りの方だと聞いた。だから、そんな方に向けて、「就活という問題を変える」ヒントとなる本をご紹介しよう。

 

25卒の就活について相談したい

 

『問題解決大全』読書猿(フォレスト出版)

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問題解決大全 | フォレスト出版


「就活で、私が直面している問題は何か?」を、考えてみよう。

このとき、一番に紹介したいのが、『問題解決大全』(読書猿)だ。「問題」を変えるためのヒントがてんこ盛り。抽象度を上げる、分解する、前提を変える、利害関係者を見直す等など、いままで頭を悩ませてきたものはなんだったのだろう? と思いたくなる。

本書には、そのための思考の道具が非常にたくさんある。気をつけなければならないのは、就活という問題にそのままハマる解決手法が書いてあるわけではないことだ。

いま生きている人が直面している問題の全て―――「全て」と断言してもいい―――は、先人が既に取り組んできている。「日の下に新しきものはなし」と言う通り、完全に新しい問題はない。先人が解決した問題が目新しく見えるか、それに取り組む「あなた」が新人なだけである。

そして、この本には既に解決済みの問題の「傾向と対策」が、ツールのようにまとめてある。完璧な解決に至らなくても、「ここまでは解消できる」といった部分点がもらえるまで明らかにしている。だから、本書をパラパラとめくって、似たような悩みをヒントに、解決手法を考え出すのだ。本書は、そうした「解決方法を生み出す方法」がまとめられている。

試しに、紹介されている手法の一つ「リフレーミング」を使ってみよう。

リフレーミングとは、目の前の事実を変えるのではなく、そこから得られる意味を変えるという試みだ。目の前の問題―――たとえば、明日の面接の質疑応答シミュレーションや、エントリーシートの文句など―――をそのまま考える前に、いったん別の枠組みから問題を再定義するのだ。

まず、就活をアレゴリー(比喩)で表現する。

たとえば、就活とは最終面接まで進み、内定を沢山もらうゲームだと考えてみよう。内定数を競うゲームであれば、単純に申込む数を増やせばいい。5社10社増やすのではなく、50倍100倍にするのだ。しかし、これは極端だろう。そんなの現実的な数字ではない。50倍は無茶にしても、3倍は可能か? 2倍ならできるか? と考えてゆく。

おそらく、どこかの時点で、これは数のゲームだろうか? と疑問を持つに違いない。どれほど多くの内定をもらったとしても、入る先は一つだから。この、疑問を持つ数がどのくらいか、というのがポイントになる。もちろん、就活は数のゲームではない。だが、その疑問を持つギリギリの数なら、「数撃ちゃ当たる」ゲームとして成立する。

あるいは、面接やエントリーシートで、うまく自分を表現したり、セールスポイントを伝えるのが難しいと感じているとしよう。「自分が本当にやりたいことを言葉にしよう」とか、「自分の得意なところを率直に言ってみよう」などと、よく言われるが、そもそもそんな「やりたいこと」や「得意なところ」なんてないのかもしれない。いや、あるにはあるけれど、面接ウケするようなモノでもないし……とためらっているのかもしれない。

この場合、ゲームに喩えると、「撃つための実弾が少ない」になる。対策本のコピペみたいな志望動機で、「自分らしさ」なんて、採用担当の人もウンザリするほど見ているだろう。そんな中で、どうやって自分を出せばいいのか? 好感度を上げるようなエピソードや、気の利いたコメントは、どこから探せばよいのか。

そう考えてゆくと、「就活の実弾とは何か?」になる。こちらと向こうの間にあるのは、エントリーシートに書いてある言葉であり、面接でやり取りする言葉である。そして、「実弾が少ない」とは、相手に響く言葉が足りないのではないか、と見えてくる。その言葉も、どこからかのコピペではなく、書き手・語り手を(プラスのイメージで)伝えるエピソードを伴っていなければならない。

「就活はゲーム」という比喩から、「数を撃って勝ち星を増やす」と「実弾を増やして勝率を上げる」の2つが導き出せた。どこまで数を撃つかはあなたに任せて、次項からは実弾(=相手に響く言葉やエピソード)のネタを紹介する。

 

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『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』ふろむだ(ダイヤモンド社)

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人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている | ふろむだ 著 | 書籍 | ダイヤモンド社


では、どうやって実弾を増やすのか? そう考えると、『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』(ふろむだ)が役に立つ。本書で紹介されている、「錯覚資産」を利用しよう。

錯覚資産とは、たとえばあなたの場合、「周囲の人があなたに対して持っている、あなたにとって都合のいい価値判断」のことだ。この価値判断は、あなたの実力を本来以上に見せることができるため、「錯覚」が含まれている。同様に、隣のAさんが、実力以上の高評価を得るとき、Aさんの錯覚資産が効果を及ぼしている可能性が大きい(いわゆる「なんでアイツがあのポジションに!」というやつ)。

錯覚資産を紐解くと、「ハロー効果+マタイ効果」になる。ハロー効果とは、ある人を評価するときに、その人が持つ顕著な特徴に引きずられて、他の特徴についての評価が歪められることだ。この認知の歪みは、プラスにもマイナスにも働くところがポイントだが、「錯覚資産」はプラス方向に特化している。

そして、マタイ効果とは、持ってる人はもっと持てるようになり、持ってない人は、どんどん失われるというもの。この「もの」はお金だけでなく、情報も込みで考えると想像しやすいだろう。ある作品が好きになり、作者についてどんどん調べてまとめサイトなんて作って発信していくうちに、新しい情報をくれる人が集まってきたり、ひいては作者自身が降臨する、なんてことは容易に想像がつくだろう。いわゆる、「雪だるま式に膨らむ」というやつ。

ハロー効果、マタイ効果、どちらも認知バイアスと呼ばれる思考のバグで、その歪みを自覚しないまま「公平な判断」を行っていると思い込みやすい。これは、言葉が持つイメージで容易にバグを起こすことができる。

たとえば、以下の2つは、何の関係もない、まったく別のことだ。

・Aさんは、スポーツ万能だ
・Aさんは、陰湿なイジメをしてきた

しかし、これらを並べるときの言葉に注目してみよう。
①Aさんはスポーツ万能なのに、陰湿なイジメをしてきた
②Aさんはスポーツ万能だから、陰湿なイジメをしてきた

上記の①と②のどちらに違和感があるだろうか? もちろん②がヘンに感じられる。「スポーツ万能」という言葉が持つ、ポジティブなイメージと、「陰湿なイジメ」というネガティブなイメージがかみ合わなくなるからだ。

けれども、本当の問題はその先にある。最初の「スポーツ万能」であることと、「陰湿なイジメ」は、何の関係もないはずなのに、「Aさんはスポーツ万能」で始まるAさんの評価が、性格という他の部分にプラスの影響を与えており、なおかつその影響に気づいていない(気づきにくくなっている)ことが、ポイントである。

気づいていないからこそ、「違和感」のようにしか見えない。自分のバイアスを自覚しているならば、「本来関係のないことをムリヤリ並べているため、①も②もおかしい」という答えになるだろう。

この、言葉のイメージが持つバグを逆手に利用するのだ。

こちらも相手も、エントリーシートぐらいしか接点のない状態からスタートしている。そこに書いてある言葉のプラスのイメージを増長させるように、自分を演出するのだ。

あなたがスポーツ万能なら、それはそのまま書いてプラスになる。だが、そんな人は少ないし、そもそも、プラスのイメージを増長させるような特技特徴なんて、そんなに持ち合わせがないかもしれぬ。

だから、自分を盛るのだ。それも、多少ではなく、大幅に盛るのだ。嘘をつけ、という意味ではない。自分がやってきたことで、形になりそうなものを思い出し、それを苦労話に仕立て上げる。この形は、物理的な結果に限らず、概念としての肩書きや成果もありだ。これが、あなたの実弾になる。

たとえば、何かのイベントの手伝いをして、そこそこ上手くいったのなら、自分がいかにそこで重要な役を果たしたかを、ストーリーづける。実行役員みたいな肩書きをつけてしまってもいいし、ちょっとしたトラブルは深刻なものに語りなおせばいい。そして、そのトラブルをいかに上手く回避したか、そこでどんな苦労をしたか、そしてその苦労がどのように状況を動かしたのかを演出するのだ。

面接する人の評価ポイントは決まっている。「コミュニケーション」だ。だが、(ここ重要)コミュニケーションという言葉をいかに使わずに、コミュニケーションが成功に導いたかを語るのだ。

たとえば、イベント会場の場所が分かりにくく、参加者から苦情が出たのなら、それを大問題にしよう。そしてあなたが誘導役のチームを即座に編成し、リレー式で会場まで案内をして事なきを得たことにしよう。

なぜ即応できたかというと、スタッフの仕事を普段から把握しており、イベント全体の状況を目配りし、みんなの声かけを促していたことが効果的だったと語ろう。そこで得た教訓は、普段から連絡を密に行っておくこと、なんて結ぼう。たとえスタッフがあなたと他1名だったとしても、それは言わなくてもいい。嘘を吐いてはいけないが、本当のことを言わなくてもいい。

上記の例は、一言に丸めると「わたしは、コミュニケーション能力があります」になる。だが、その一言は「あえて」言わずに、「わたしは、こんな苦労をしました」というストーリーで語るのだ。そして、コミュニケーション能力があるというイメージは、周囲に気配りができる、人に的確に指示し、動かすことができるといった特徴を押し上げる。人に上手にお願いができるという人は、重宝されるぞ。

言葉のイメージは錯覚資産となる。苦労話に仕立てることで、実弾とすべし。

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 『ルネサンスの世渡り術』壺屋めり(東京芸術新聞社)

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ルネサンスの世渡り術 | 芸術新聞社


次の実弾は、「自己プレゼン」だ。「自分を演出せよ」といっても、難しい。自分を「盛る」なんて、嘘を吐くこととどうちがうのか? これは、わたしが学生時代に教わった、面接必勝法の話が分かりやすいかもしれない。

かなり昔になるが、英語の教師が授業をそっちのけにして、「とっときの面接必勝法を教えてやる」という前置きで語りだしたネタである。

それは、「特技や趣味は何ですか?」と聞かれたとき。読書やスポーツといった無難なやつもいいが、周りと差をつけるなら、「手品!」と言えと。手品なんてできなくてもいいのだと。面接する人は、ほー、やって見せてよ、と言うはずだから、そこは「今はタネも仕掛けも持ってないんです」と返す。さらに、小動物とかも使いますから云々と付け足すのだ。

そこまで引っ張られたら、気になる。手品が得意なんて、宴会にもってこいだ。なに、面接に来る連中なんて、ドングリの背比べみたいなものだから、そこで手品なんて言われたら、「採用!」となるはず。手品は合格した後に覚えればいいし、めんどうならば、言い逃れてしまえばいい―――とかなんとか。

そこまでしたたかになれるかは、人による。できないのに「できる!」なんていうのは嘘じゃないか! それはその通り。なので、わたしは嘘にならないよう、就職活動中に、必死こいて手品を覚えた。「王様のアイディア」というお店があって、100円玉が消えるとか、カードを通り抜けるペンとか、手品の種を買い込んだものだ。今だとネットで買えるんじゃないかしらん。

どこまで人がしたたかになれるかは、レオナルド・ダ・ヴィンチの就活を参考にしてみよう。

『ルネサンスの世渡り術』(壺屋めり)を見ると、彼の苦労とテクニックは、ルネサンス時代でなくても参考になる。フィレンツェの工房で修行を積んだダ・ヴィンチは、フリーの画家として独立するのだが、なかなか成果を上げることができなかったという。そこで心機一転して、ミラノへ取り入ろうとするのだが、そのエントリーシートがスゴい。

もちろん、当時はエントリーシートではなく、ミラノを統治する貴族へ宛てた手紙だが、そこには、レオナルドができること・作れるものが、箇条書きで残されている。
 

  1. 1. 軽くて強固な橋
  2. 2. 戦闘装置
  3. 3. 要塞や砦を破壊する技術
  4. 4. 運搬が容易な大砲
  5. 5. 地下トンネルの掘削技術
  6. 6. 装甲車
  7. 7. 大砲、追撃砲、軽砲
  8. 8. 砲撃に適さない状況で用いる、石弓、投石機
  9. 9. 海戦のための、砲弾、火薬、耐火性の船
  10. 10. 平和時における、建造物の設計、大理石、ブロンズ、粘土の彫刻、絵画

ちょっと待て。レオナルド・ダ・ヴィンチといえば、「モナ・リザ」でしょ? さまざまな分野において才能を発揮した、万能の天才だったけれど、駆け出しの頃は画家だったのでは? そんな憶測を蹴飛ばすがごとく、軍事技術にこだわりまくりの自薦リストなり。10のセールスポイントのうち、かろうじて、最後の一つが絵画や彫刻になっている。なぜ、自分の得意分野を最後に、しかも一つだけにしたのか?

実は、これにはちゃんと理由がある。

当時のミラノは君主国で、そこを統治していたスフォルツァ家は、由緒を持たない新興貴族だったのだ。いわゆるたたき上げで、伝統よりも軍事に権力基盤を置いていた。当然、新しい軍事技術は、喉から手が出るほど欲しいし、逆に、そうした軍事技術を持つ人材が、ミラノ外へ流出するのを防ぎたいはず……と想像するのに難しくない。

レオナルドは、こうした雇用主のニーズを見極め、一般に知られていない技術を持っている、と自分をプレゼンテーションしたのである。

では、その頃のレオナルドは、軍事技術の研究をしていたのだろうか? 実は、当時の作品メモやスケッチが遺されている。そこには、聖母像や友人の肖像、デッサンばかりで、技術関連といえば、航海の道具、給水の機械、釜の3点だけだったという。

つまり、軍事技術のエキスパートとして自らを「演出」したとき、軍事に関わるものをほとんど作っていなかったのである。もちろん、軍事技術家として設計やデザインを行った業績も残されているが、それらは就職した後でのこと。ハッタリが功を奏した例やね。

まったくといっていいほど経験がないものを、自らの強みとしてプレゼンする。天才だからこそできたのだと言うことは簡単だが、天才なのに就活に苦労したからと考えると、学ぶところが大きい。これに比べると、わたしの「手品」なんて、お可愛いことよ。

レオナルドのようにハッタリを利かせろ、と言いたいのではない。レオナルドは、「自分を深く掘り下げる」ことよりも、「雇用主のニーズを徹底的に調べる」を優先した。そしてプレゼンのとき、「雇用主のニーズ」に合うように自分を売り込んだのである。

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『名文どろぼう』竹内政明(文春新書)

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文春新書『名文どろぼう』竹内政明 | 新書 - 文藝春秋BOOKS


決められた時間内で、自己アピールなんて、かなり難しい。何人ものオトナを前にしてしゃべるなんて、ほとんど慣れていないし訓練もしていない。コツや虎の巻は書店の面接コーナーで買い込んできたが、やれそうもない。

だから、面接にまつわるもろもろを、「クリアしなければならない問題の集合」として捉えるのではなく、いったん、「これだけは相手に伝えたい一言」だけを用意する。そして、それが伝わればクリアとするゲームだと、リフレーミングしよう。

その一言は、自己紹介や志望動機に混ぜていいし、質問に潜ませてもいい。上手いこと言うのを狙うのは、その一言の数秒間だけ。ただし、それを口にするまでの溜め、抑揚、カツゼツ、音量は完璧にする。他は全て、失敗してもいい。いや、他を全て犠牲にしても、この決め台詞だけは完璧にすべし。

これこそが、言葉の実弾になる。この一発だけを撃ちこんで、当たれば勝ちなのだ。朝からずっと、同じような志望動機をずっと聞かされている面接担当に、ビシッと当ててやれ。

そして、言葉は盗め(ここ重要)。オリジナリティ糞喰らえ。「自分を深く探す」ことなんてしなくていい。たかだか20年ちょいしか生きていないのだから、そんなに言葉のストックはないはずだ。だから、「自分らしさ」を実弾にするのではなく、面接担当に響きそうな「刺さる言葉」を探すのだ。

手っ取り早く探すなら、名文集や箴言集をアテにする。ここでは、『名文どろぼう』(竹内政明)から紹介しよう。くすっと笑える軽いやつから、意味が分かると重い一言まで、取り揃えている。そこから、いいな、と思ったやつを、いただく。「先輩から聞いたんですけれど~」と枕詞をふればOKで、エピソードは盛ればいい。

たとえば、「いい人と歩けば祭り、悪い人と歩けば修行」という寸言がある。これを―――(ゼミやサークルといったグループで)独断的でキツい人がいたんです。周りもちょっと引いて、その人も浮いた存在でした。けれども、とある先輩は面倒見がよく、その人をフォローしており、そのことを指摘したら、先輩が教えてくれたんです、この言葉を―――という形で仕立てる。「どんな状況も受け取り方次第で学びがありますね」とまとめてもよい。

あるいは、「教授が言ってたんですけど~」で始める―――経済学の教授だったんですけれど、なぜか現代美術の審査員もやってました。その教授、絵なんて描けないはずなのに、どうして審査員なんだろう? と疑問をぶつけてみたら、面白い言葉が返ってきました「私はタマゴを生んだことはないけれど、それでもタマゴが腐ってるかどうかは分かります」云々。

「タマゴ」の元ネタはチャーチルだが、面接担当が知ってたら、大げさに驚いてみせよう。そして、「かならず教授に伝えます」と約束しよう。その約束を守る必要はないが、「面接を受ける側の人が約束をする」という状況は珍しい。だから、面接した人は、きっと気にかかるだろう。つまり、「言葉により印象づける」はクリアしている。

大事なことなので何度でも言うぞ。

言葉の持ち合わせがないのなら、自分の中を探すなかれ。それこそ、あなたの趣味や得意な分野を探せばいい。本からだけでなく、映画やドラマ、マンガやヒットソングからもらってもいい。面接する担当だと30代から40代前半ぐらいだろう。その人たちがハマった、2000年代の作品から実弾を探せばよい。言葉は武器だ。そして、エントリーシートや面接で飛び交うものは、言葉だ。

あなたにとって、武器となるような言葉をくれたのが、キアヌ・リーブスなら「先輩が~」に置き換えて、ゴン=フリークスなら「後輩が~」がしよう。「大学の」を入れなければ、嘘ではない。自分にとってではなく、面接する人に対し、刺さる言葉を、探そう。

 

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『自分の仕事をつくる』西村佳哲(ちくま文庫)

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筑摩書房 自分の仕事をつくる / 西村 佳哲 著


「刺さる言葉」としての実弾で、かなり威力のあるのがこれ。就活という期間ではなく、その後の、「仕事をする」根幹に刺さる。

「いい仕事」とは何か? という問いに対する、一つの応答が本書である、と言えば伝わるだろうか。著者は、さまざまな人にインタビューする。建築家、パン職人、デザイナーの現場で働く人々と、「いい仕事とは何か?」について語り合う。

そこで得られたポイントは2つ。

ひとつめ。「いい仕事とは、自分の仕事」である。他人事を自分ごとにするのが仕事であり、他の誰にも肩代わりできない「自分の仕事」を実現することが、人を満足させる仕事だという。これ、サラリーマンには難しいかも。「ここまでが職務」とか「それはアナタの担当でしょ」といったせめぎあいに明け暮れている私には耳が痛い。

しかし、「後進を育てる」という点に関しては、これが成り立つ。どんな仕事であれ、仕事の仕方を教えて、一緒になって効率や能力を伸ばしてゆく。そして、「ああ、あの人はアナタの後輩なんですね、さすがです」と言われると無上に嬉しい。いい仕事とは、(自分も含めた)人の育成なのだから。

ふたつめ。これはジョージアのCMで耳にする、「世界は、誰かの仕事でできている」である。これ、当たり前のようで聞き流してしまいそうなんだけれど、サラリーマンを長く続ければ続けるほど刺さってくる。本書から引用しよう。
 

この世界は一人一人の小さな「仕事」の累積なのだから、世界が変わる方法はどこか余所ではなく、じつは一人一人の手元にある。多くの人が「自分」を疎外して働いた結果、それを手にした人も疎外する非人間的な社会が出来上がるが、同じ構造で逆の成果を生み出すこともできる。結果としての仕事に働き方の内実が含まれるのなら、「働き方」が変わることから、世界が変わる可能性もあるのではないか

建造物や製品といったモノだけでなく、それらを提供するサービスや運用されてゆく社会そのものが、誰かの仕事の集積の上に成り立っている。働く人たちが、それぞれの額に汗して、自分の持ち場を守る。一つ一つは小さいかもしれない。でも、そんな誰かの仕事のおかげで、世界ができている。私が「いい仕事」をすることが、結果的に世界をよくすることにつながる。私はこれを知ってきたし、あなたにも知って欲しい。

もし、「仕事とは何だと思っていますか?」とか、「あなたはどのように仕事をしようと考えていますか?」といったふわっとした質問を投げられたら、これ幸いとばかりに、この実弾を撃ち込むべし。面接に持ち込んでいいのなら、本書を見せるのもアリかも。

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『斧』ドナルド・E・ウェストレイク(文春文庫)

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『斧』ドナルド・E・ウェストレイク 木村二郎・訳 | 文庫 - 文藝春秋BOOKS

最後に渡す実弾は、「常識やぶり」だ。就活という問題に取り組むにあたり、さまざまな前提を設けていないだろうか? たとえば、「自分が行きたい企業に就職するべきだ」とか「自分が理系(文系)だから、理系の(文系の)企業に行くべきだ」とか。そもそも「行きたい」とは何か?を考えていなかったり、「理系の企業」というカテゴリを作っていないだろうか。

たとえば、単に興味があるから受けてみようもアリだと思うし、全く興味がなくても採用してもらえそうだから受けてみるとか(ただそれを正直に言うかどうかは別だが)。競争率を下げるべく、誰も目指さないような仕事を探してみるとか、競争者を脱落させるべく画策するとか。もちろん最後の策はNGだが、いったん「なんでもアリ」で考えてみる。

そんなとき邪魔をする「常識」、これに揺さぶりをかける、とびきりのノワール小説を紹介しよう。

職探しが厳しいご時勢、リストラされた中年男が再就職先を求めて奔走する話である。家族や生活を守るため、必死になってポストを求めるのだが、彼の発想が凄まじい(素晴らしい?)。自分の他にも、再就職先を探している人がいて、そうしたライバルが邪魔をしているのだと考える。なら、消せばいい。

そして、新聞広告を打つのだ。自分の持つ専門スキルを求めている雇用主のフリをして、人材を募集するのである。そして、そこに応募してきた人をリストアップし、一人また一人と殺してゆく。最初は不慣れだった殺人だが、だんだん淡々とこなせるようになってゆくのが怖い。同時に、マイナス思考からプラス思考へ、発想が変わってゆくのが笑える。

常識やぶりの極端な例として笑ったあとで、自分の縛っている前提を見直してみよう。ライバルを殺すなんて論外だが、「就職先を探すために雇用主の立場から自分のスキルを分析する」とか、「雇用主のフリをするために、雇用者の気持ちになって面接する」なんて、たいへん実践的である。

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言葉は武器である


実弾としてお渡したのは、「錯覚資産」「自己プレゼン」「刺さる言葉」そして、「常識やぶり」だ。最後のはマネしちゃダメだが、そういう考え方もあるという、一つの極端な例として楽しんでほしい。

就活という問題をリフレーミングしてゲームに喩えると、準備しなければならないのは、エントリーシートや面接の前に、エントリーシートや面接で使う「言葉」だということが分かった。言葉にはイメージがつきまとい、プラスのイメージを持つ言葉を使う人を嵩上げすることも伝えた。そして、できるだけ刺さる実弾を、「自分の外」から集めることが重要だということも言った。

くどいのを承知で何度でも言う。

「自分を知る」なんて糞喰らえ。オリジナリティなんてどうでもいい。刺さる言葉は、あなたの内側に聞くのではなく、あなたが好きなものにある。それを探して、面接する人に向けた実弾にせよ。あなたの問題は、既に誰かが取り組んでおり、解決手法もある。あなたは、それを探してカスタマイズすればいい。

ここで紹介した本は、就職活動という限られた期間だけでなく、その後、組織の中で成果を上げるときにも役に立つ。特に、『問題解決大全』と『勘違い』は、仕事で行き詰まったり、出世を目指すときに、本領を発揮するだろう。そういう意味で、長く使ってほしい。

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