企業研究を深めるときは、企業が公開しているIR*情報が有用です。
上場している企業であれば、自社サイトの投資家向けページに情報が公開されており、経営状態や財務状況、業績・今後の見通しなどにまつわる情報がまとまっています。
しかし、投資家向けの情報ということもあり内容が深く、読むのが難しいという印象を持っている就活生は多いのではないでしょうか。
この企画では、IR情報の中から企業研究に有用な部分を抜粋し、紹介していきます。
1回目の今回は楽天株式会社のIRをまとめてみました。楽天エコシステム(経済圏)を形成し、さまざまな事業を展開している楽天のIR情報を読み解いていきます。
(本文中の表・グラフ・画像は「楽天株式会社 第23期有価証券報告書」、「2019年度通期及び第4四半期決算説明会資料」、「楽天株式会社2020年度第1四半期決算説明会」、楽天株式会社コーポレートサイトを参考にキャリアチケット編集部が独自に作成しています)
*IR(Investor Relations)とは、企業が株主や投資家に対し、財務状況など投資の判断に必要な情報を提供していく活動全般を指します。
・楽天株式会社の事業概要
・楽天株式会社の中長期経営計画
・楽天株式会社の2019年度全体収益・経常利益
・2020年期12月期、楽天株式会社の展望
・コロナウイルスによる影響
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楽天株式会社の会社概要
楽天株式会社の会社概要はこちらです。
代表者:代表取締役会長兼社長 三木谷 浩史
理念:「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」
ビジョン:グローバルイノベーションカンパニー
設立年:1997年2月
従業員数:20,053名(2019年12月31日現在)
楽天市場や楽天カードなどさまざまな事業を展開している楽天株式会社は、代表取締役会長兼社長である三木谷浩史さんの強力なリーダーシップのもと「グローバルイノベーションカンパニー」をビジョンに掲げ、世界30カ国・地域でビジネスを展開しています。創業24年目ではありますが、従業員数は世界各国に20,000名以上。2010年から社内公用語の英語化を進めており、2015年の段階で、TOEICの全社員平均スコアは800点を超えています。日本のみならず、グローバル企業として会社規模が大きくなってもなお成長を続ける企業の1社です。
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楽天株式会社の事業概要
楽天株式会社は5つのサービス事業のカンパニーと、各カンパニーが柔軟に動けるよう必要な支援や全体戦略、ガバナンスを担う組織の「グループ・ヘッドクォーター」で形成されています。
└楽天市場、楽天トラベル、楽天ブックス、ラクマなど
②フィンテックグループカンパニー
└楽天ペイ、楽天カード、楽天銀行、楽天証券など
③メディア & スポーツカンパニー
└Rakuten TV、楽天デリバリー、ヴィッセル神戸、東北楽天ゴールデンイーグルスなど
④コミュニケーションズ & エナジーカンパニー
└楽天モバイル、楽天エナジーなど
⑤インベストメント & インキュベーションカンパニー
└楽天キャピタル、楽天ドローン、Rakuten Super English
⑥グループ・ヘッドクォーター
└本社機能
私たちの生活に身近なサービスをたくさん運営している楽天株式会社は、5つのサービス事業カンパニーによって、70を超えるサービスを展開し世界13億以上のユーザーに利用されています。 これらさまざまなサービスを楽天会員を中心とした共通のIDを軸に結び付け、ほかにはない独自の「楽天エコシステム」と呼ばれるビジネスモデルを形成し、企業理念の実現を目指しているのが特徴です。
2019年12月期の『2019年度通期及び第4四半期決算説明会資料』によると、楽天株式会社のサービス利用者のうち、1年以内に2サービス以上楽天のサービスを利用した人の割合を示すクロスユース率*は71.9%に到達しています。3年前の時点では62.7%であり、ここ数年で10%pt近く向上しました。
数多くのサービスを提供し、それらを共通IDで結びつける「楽天エコシステム」というビジネスモデルが年々強固なものになっていることがわかります。
* 過去12か月間における2サービス以上利用者数/過去12か月間における全サービス利用者数 (2019年12月末時点)
(楽天スーパーポイントが獲得可能なサービスの利用に限る)
「コアビジネス」は稼ぎ頭の事業です。具体的には、楽天市場・楽天トラベル・Rakuten US Rewardsのインターネットサービス事業3つと、楽天生命・楽天銀行・楽天カードのフィンテック事業3つ、計6つの事業でコアビジネスは構成されています。以前はECサイトやインターネットサービスのイメージが強かった楽天ですが、近年ではこれらに加えて、フィンテック事業がコアビジネスに成長しました。順調に利用者数・売上を伸ばしており、安定的に収益を生み出す事業となっています。
「成長フェーズビジネス」は今まで行ってきた投資が、少しずつ実ってきた事業です。具体的には楽天ブックスや、ラクマ、海外事業など。これらの事業は今後さらに成長していくと見込まれています。
「投資フェーズビジネス」は将来的に大きな収益をもたらす事業で構成されています。具体的には物流事業や、モバイル事業などです。本記事の後半で収益・利益を見ていきますが、そこで「投資フェーズビジネス」が現在赤字を生み出していることが分かります。しかし、これらの赤字はビジネス不調によるものではなく、先行投資による赤字なので誤った理解をしないようにしましょう。
このように、楽天株式会社は、「楽天エコシステム」と呼ばれる独自のビジネスモデルを形成し、数多くのサービスを提供。70%以上の利用者は複数の楽天株式会社のサービスを利用し、利用者の多いコアビジネスで得た収益は成長フェーズ・投資フェーズの事業に投資をすることで今後のさらなる成長が期待される企業であることを理解しておきましょう。
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楽天株式会社の中長期経営計画
楽天株式会社は現在、中長期経営計画の「VISON2020」を掲げ、その実現を目指しています。「VISON2020」の中で、2020年12月期売上収益目標は1兆7000億円、営業利益目標は3000億円*と設定されています。
*営業利益はNon-GAAPベース、Non-GAAPとは為替変動や一時的なコストを除外した会計基準のこと
営業利益目標3000億円の内訳は、「楽天市場」「楽天トラベル」などの国内EC事業が1600億円、その他のインターネットサービス事業が200億円、「楽天カード」などのフィンテック事業が1200億円となっています
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楽天株式会社の2019年度全体収益・経常利益
それでは楽天株式会社の2019年12月期の具体的な収益、利益を見ていきましょう。
営業利益:727億4,500万円 (前期比△57.3%)*
*IFRSベース。IFRSとは、国際的に共通した会計基準のこと
2019年12月期売上収益は前年期と比べて、14.7%増加、営業利益は前年期と比べて57.3%に減少しています。
収益をもう少し細かく見てみましょう。楽天株式会社は決算を行ううえで、事業を3つの事業セグメント*に切っています。1つが楽天市場などのECサイトなどを含むインターネットサービス事業。2つ目が楽天カードや、楽天銀行などの金融サービスを含むフィンテック事業。そして3つ目が、モバイル事業です。
3つのセグメントについて、2019年度の業績と前年度の業績を比較した表とグラフを見てみましょう。
*下記3つの要件を満たすものを事業セグメントと呼ぶ。①収益を獲得し、費用が発生する事業活動に関わる②企業の最高意志決定機関がそこに配分すべき資源に関する意思決定を行い、またその経営成績を定期的に検討する③それぞれが分離された財務情報を入手できる
【インターネットサービス事業】
前期 | 当期 | 増減額 | 増減率 | |
セグメント
売上収益
|
676,677 | 792,512 | 115,835 | 17.1% |
セグメント
損益
|
107,707 | 90,738 | △16,969 | △15.8% |
【フィンテック事業】
前期 | 当期 | 増減額 | 増減率 | |
セグメント
売上収益
|
424,488 | 486,372 | 61,884 | 14.6% |
セグメント
損益
|
67,903 | 69,306 | 1,403 | 2.1% |
【モバイル事業】
前期 | 当期 | 増減額 | 増減率 | |
セグメント
売上収益
|
89,863 | 119,808 | 29,945 | 33.3% |
セグメント
損益
|
△13,672 | △60,051 | △46,379 | - |
*決算書における△は、マイナスを意味します
売上収益は、すべてのサービスセグメントにおいて前期比で10%pt以上増加しています。この要因ですが、楽天市場など国内EC、楽天カード、収益格安SIM楽天モバイルなど、既存の事業が順調に伸びた結果、増収となりました。
営業利益は前期比57.3%となっています。主な要因としては2つ。
1つ目がインターネットサービス事業への投資です。具体的には、楽天株式会社は「楽天市場」の出店店舗を対象に商品の保管から配送まで、包括的な物流サービスの提供を目指す「ワンデリバリー」構想のもと、自社物流網の整備・強化をしたこと。そして海外インターネットサービスにおける、ブランド認知度の向上及び事業の拡大のために、各サービスの「Rakuten」ブランドへの統合を目的とした販促活動が要因となっています。
もう1つの要因がモバイル事業。具体的には、2020年の4月からMNO*としてサービス提供を開始するために基地局開設の投資を行ったことや、楽天モバイルを、音声・データ通信をサービスを無料で利用できる「無料サポータープログラム」を約5,000名対象に開始したことがモバイル事業の赤字計上の原因です。
*MNOとは、移動体通信事業者のこと。日本では「キャリア」とも呼ばれ、総務省から割り当てられた周波数帯を自前の基地局を介してユーザーに届けている
主にこれらの要因によって、営業利益は前期比57.3%となりました。
楽天市場などインターネットサービスが主力の事業であることがわかる
売上収益はすべての事業セグメントで前期比プラスとなっている
インターネットサービス、モバイルのセグメントは投資が膨らみ昨年期からマイナスとなっている。
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2020年期12月期、楽天株式会社の展望
株式市況の影響を大きく受ける証券サービスを除いた連結売上収益については、2019年12月期に比べ2桁の成長率を目指すとしています。
各サービス事業ごとに見ていきましょう。
インターネットサービス
楽天市場などの国内EC事業では、2019年12月期に引き続き、自社物流網の整備・強化を行いながら、楽天エコシステムをより強固なものにするべく注力。加えて、データやAIなどの活用を通じた新しい市場開拓に注力するとしています。海外インターネットサービスにおいては、楽天エコシステムの会員基盤拡大しながら、海外におけるブランド認知度の向上を図るようです。
フィンテック
楽天カードなど、クレジットカード関連サービスは、引き続きシェアを拡大し、ショッピング取扱高のさらなる成長を目指しています。楽天銀行などの銀行サービスにおいては、安定的なローン残高の積み上げにより、堅調な事業の拡大が見込まれるとのこと。
保険サービスは、新契約件数の拡大を図りながら、 インターネットサービスとの親和性が高い商品を拡充していくことにより、さらなる成長を目指します。
証券サービスにおいては、 株式市況の影響を大きく受けるため、予想は困難と記載しています。
モバイルサービス事業
2020年4月にMVNO*からMNOになり、始まった携帯キャリア事業については、全国的にネットワークを展開し、信頼性の高い通信サービスの拡充に注力するとのこと。4G回線の基地局の開設と、6月からスタート予定の5G回線導入のために基地局開設計画を進めていくため、投資に回す金額が大きくなると予想しています。*MVNOは、MNOと呼ばれる通信キャリアから回線の一部を借り、ユーザーに提供している通信事業者のこと。簡単に言うと格安SIMの提供をしている会社
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コロナウイルスによる影響
2020年5月13日『2020年12月期第1四半期決算』が発表されました。その中で、世界的に大きな影響を与えたコロナウイルスの影響について触れているためまとめていきます。
主に大きな影響を受けたのが、インターネットサービス事業です。
『楽天市場』や医療品・日用品等の通信販売等を行う『Rakuten 24』などで、「巣ごもり消費」の拡大に伴うオンラインショッピング需要の高まりによる、取扱高押し上げの効果がありました。また、電子書籍の『Kobo』や『Rakuten TV (ヨーロッパ)』などのデジタルコンテンツサービスも好調であると発表しました。
一方で、マイナスの影響を受けているサービスもあります。インターネット旅行予約サービスの『楽天トラベル』は、新型コロナウイルス拡大の影響を強く受け、特に2020年3月以降の予約低迷、キャンセルが相次ぎました。『楽天チケット』も同様にイベントの延期や返金が発生しています。
その他の事業やサービスも含め、コロナウイルスの影響を受けたサービスについて画像にまとめましたので、ご確認ください。
2020年5月13日の発表時点で、楽天株式会社は下記のように言及しています。
*「2020年12月期 第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」より引用
楽天株式会社が展開している70を超えるサービスの中には、コロナウイルスによってマイナスの影響を受けたサービスもありますが、プラスの影響を受けたサービスもあります。
「2020年秋までコロナウイルスの影響を受けたとしても、現段階では、2020年度の全体収益目標に変更をもたらすものではない」との声明を発表していることから、楽天株式会社は、世の中の動向によって左右されにくいの事業構成になっていることがわかります。
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IR情報はここまでわかる!
今回は楽天株式会社のIR情報「有価証券報告書」「決算短信」「企業HP」「通期決算説明会説明資料」の中から、就活時に知っておくとプラスになる、基本的な情報を抜粋してまとめました。
今回紹介した情報はIR情報のほんの一部であり、実際のIR情報を見てみるとさらにたくさんの情報が開示されています。
各種の財務諸表や、細かな経営上の数字、経営者が考える今後のリスク、業績の分析、会社の設備の話……など、ここまで出すの!? と驚くほど細かな部分まで詳細に公開されているので、ぜひ一度、自分が興味がある会社のIR情報を見てみてください。
IR資料にチャレンジする際に、おすすめなのが説明会資料です。説明会資料はパワーポイント形式でまとめられていることが多く、図やグラフで視覚的に会社の状況がわかるものが多いので、有価証券報告書や決算短信よりも読みやすいと思います。
もっと深く企業研究がしたい!という方はぜひIR情報の読み込みにチャレンジしてみてください。
参考文献:
・楽天株式会社投資家情報 https://corp.rakuten.co.jp/investors/より
「2019年度通期及び第4四半期決算説明会資料」
「楽天株式会社 第23期有価証券報告書」
「四半期報告書 第24期第1四半期(2020年1月1日 - 2020年3月31日)」
「2019年12月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」
「2020年12月期 第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」
「楽天株式会社2020年度第1四半期決算説明会」
・1分で分かる楽天エコシステム(経済圏) https://adsales.rakuten.co.jp/business/rakuten/
・楽天株式会社コーポレートサイト https://corp.rakuten.co.jp/
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