このページのまとめ
- 2018年度の映画の興行収入は、過去20年間で歴代3位の実績
- スクリーン数も6年連続で増加しており、回復傾向にある
- 動画配信と映画上映の差が縮まり、映画ビジネスに大きな変化が訪れつつある
毎年、いろいろな作品が登場し、私たちに感動を与えてくれる映画たち。憧れが熱意に変わり、いつしか、自分も映画業界で働いてみたいと考えるようになった方もいると思います。実際、とても人気が高く、就職難易度が高い傾向にある映画業界。まずは、どのような業界なのか、企業があるのか、そして、今後の展望などについて理解を深めておきましょう。
本記事の執筆者
島村卓弥(しまむら・たくや)
立教大学卒業後、(株)文化通信社に入社。映画部記者として、多くの映画会社で購読されている日刊業界紙『文化通信速報』と月刊業界誌『文化通信ジャーナル』の制作、ポータルサイト『文化通信.com』の運営に携わる。これまでに製作・配給・宣伝・興行・映画祭の関係者延べ100人にインタビューを行い、映画業界の内側を取材し続けている。プライベート含めて、国内外問わず年間300本の映画を鑑賞。
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映画業界は「製作」「配給」「興行」の業態がある
大まかに説明すると、映画作品が映画館で上映されるまでには、映画を作り、映画を映画館に持っていき、映画を宣伝し、映画館が映画を上映する、という流れがあります。
その流れのなかで、関わっている業態(部門)は主に3つ。「映画製作会社」「映画配給会社」「映画興行会社」です。アパレル業界に例えるなら、「製作」が洋服を手がけるメーカー、「配給」が洋服をメーカーと店舗を仲介する卸売業、「興行」が店舗になります。それぞれ詳しく見ていきましょう。

映画が完成するまでのプロデュース業務を行います。その映画を誰に対して(ターゲット層)、いつ(なぜ今その映画を作るか)、どこで(どの映画館で)、誰が(どのスタッフ・キャストで撮るか)、どのような(映画の内容)といった事柄を決めていきます。
映画を実際に作ることは“制作”と呼ぶのに対して、プロデュースの意味合いが強い場合は“製作”と呼びます。
映画作品を映画館で上映するまでの業務(宣伝を含む)を行います。具体的には、映画の買い付けと配給を行ったり、ヒットさせるための宣伝を行ったりします。映画は完成したら終わりではありません。完成した映画に買い手がついて、全国の映画館に配給されて初めて上映されます。

映画館を運営する部門です。配給された映画を上映したり、上映スケジュールを決めたり、劇場内の物販なども担います。
ちなみに、広告やCMで「興行収入◯◯円突破!」といった宣伝が流れますが、興行収入とは、映画館の入場料金収入のことです。「興収」と略されることもあるので覚えておきましょう。
現在、大手映画会社の『東宝(映画興行会社:TOHOシネマズ)』、『松竹(映画興行会社:松竹マルチプレックスシアターズ)』、『東映(映画興行会社:一部を除きT・ジョイ)』、『角川映画』では、これら3つの部門をすべて行っています。
また、大手に限らず、『東京テアトル』や『アップリンク』なども同様に3部門を担っており、最近では、映画製作・配給を手がけてきた『キノフィルムズ』が『株式会社kino cinema』という映画興行会社を立ち上げました。2019年4月には、横浜みなとみらいに第1号店をオープンし、業界の中で大きな話題となっています。
その他、委託としてプロモーション業務を行う「映画宣伝会社」や、映画撮影現場の業務を担う「制作プロダクション」、DVD/ブルーレイなどを発売・販売する「パッケージ会社」、字幕や予告編を制作する会社、映画祭を運営する会社など、映画に携われる仕事は多岐にわたります。
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邦画メジャーと洋画メジャー
映画業界には「メジャー」と呼ばれる会社があります。時代によって移り変わりますが、会社名を知っておくことで業界の動きを掴みやすくなるでしょう。
邦画メジャー
一般社団法人『日本映画製作者連盟(映連)』に加盟する会社を指します。先にご紹介した、松竹・東宝・東映・角川の4社が邦画メジャーに当たります。
洋画メジャー
たとえば、『ディズニー』、『ワーナー』、『パラマウント』、『ソニー(コロンビア、トライスターが傘下)』、『フォックス』、『ユニバーサル』など。日本で洋画メジャーの作品を配給しているのは、ディズニー、ワーナー、ソニー、20世紀フォックスが日本支社、パラマウントが『東和ピクチャーズ』、ユニバーサルが『東宝東和』です。ユニバーサルは、作品によっては、他社が手掛けるケースもあります。
最近、米ディズニーがフォックスを買収しました。今後、日本支社がどのような形で作品に関わっていくかが注目されています。
また、洋画メジャーといっても、邦画製作に力を入れている会社もあります。たとえば、『るろうに剣心』シリーズや『銀魂』シリーズは、洋画メジャーの『ワーナー』が手がけています。ちなみに、洋画メジャーでありながら、邦画製作を行うことを「ローカル・プロダクション」と呼ぶので覚えておきましょう。
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映画業界で収益が生まれる仕組み
映画業界の収益ベースは「興行収入(入場料金×有料入場者数)」です。そこから、興行会社の取り分と諸経費を差し引いた残りを「配給収入」と呼びます。さらに、配給収入から製作会社と配給会社の取り分が分配されます。
製作会社、配給会社、興行会社、それぞれの取り分(パーセンテージ)は、作品によって異なるため一概には言えません。また、最近では「製作委員会」という、複数の会社が1本の映画を製作するのが中心となっています。ちなみに、諸経費には、「P&A(プリント&アドバタイジング)」と呼ばれるプリント費と宣伝費を指す経費が含まれます。
「映画がヒットしたかどうか?」については、映画館で上映したあと、DVD/ブルーレイの販売やレンタル、テレビ放映・配信、海外販売、キャラクター商品販売といった「二次利用」の利益を含めて、はじめて表せる場合もあります。そのため、「何億円到達したからヒットした」とは一括りにはできず、製作費・宣伝費のかけ方、製作のスキームなどが大きく影響します。
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映画業界の現状
映連の公式HPでは、毎年1月に前年の映画産業に関するデータを発表しています。2019年1月に発表されたデータを覗いてみましょう。2018年の年間興収は、前年比97.3%の2225億1100万円。前年から60億円強の減少となりましたが、興行収益の発表を始めた2000年からの過去19年間でみると、2018年の興行収入は、2016年・2017年に次ぐ歴代3位の好成績を収めています。
出所:一般社団法人日本映画製作者連盟
また、2018年の平均入場料金は1,315円で前年よりも5円上昇。4DやIMAX、ドルビーアトモス(最新の音響技術)などが引き続き人気となり、単価を押し上げています。
公開本数は邦画613本(前年比19本増)、洋画579本(14本減)、合計の1,192本(5本増)は2年連続で史上最多。6年連続で1,000本を超えました。スクリーン数も全国3,561で、スクリーン数も2013年から6年連続で増加傾向にあります。
出所:一般社団法人日本映画製作者連盟
また、映連の発表を年別に並べてみると、映画市場の規模は2000年以降、2,000億円のラインを前後している、横ばいの傾向にあります。
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映画業界の課題
前述したとおり、スクリーン数は6年連続で増加傾向にあります。これは主にシネコン(シネマコンプレックス=複数のスクリーンを保有する映画館)の開業によるものです。
一方で、シネマ・アンジェリカ、シネマライズなど、ミニシアターの閉鎖が続いています。若手映画監督が作品を上映する環境が減っており、作品を生み出す次世代が育ちにくいのが現状です。
また、日本では、独立行政法人『芸術文化振興会』が映画に対する助成金を付与していますが、付与される先は製作、映画祭運営、上映会が中心です。フランスや韓国では、小さな映画館や映画配給会社に対しても、「放っておけば消えてなくなってしまうものにこそ助成金を」という精神のもと、助成金を割り振っています。
日本の映画業界を盛り上げるためにも、業界全体が一丸となって、映画の多様性を求めていくことが必要です。もちろん、助成金は税金で賄われていますし、国民の間に「税金を映画のために使うことはいいこと」というムードが下敷きになければ実現は難しい。そのため、教育レベルから映画を浸透させることが求められるでしょう。
とはいえ、ネガティブな話ばかりではありません。
2018年には、『芸術文化振興会』が助成金の改善策を2つ実行しました。ひとつ目は若手監督に向けた申請枠を新設したこと。ふたつ目は製作者による製作費(助成金に充てる分)の一時立て替えを回避するべく単年度制から2か年度制にしたこと。今後、国際共同製作(他国と共同で映画を製作すること)への助成金、低予算映画の労働環境の改善、製作以外へのサポートなどが行われ、多様な映画作品が作られることに期待が集まります。まだまだ課題は山積みですが、一歩ずつ改善していかなければなりません。
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映画業界の今後について
2019年以降、大きな話題として2つ挙げられます。ひとつ目は、TOHOシネマズが、映画鑑賞料金を一般1,800円から1,900円に引き上げを決めたこと。ふたつ目は、ネットフリックス作品の『ROMA/ローマ』(アルフォンソ・キュアロン監督)がイオンシネマを皮切りに劇場公開されたこと。いずれも映画の価値をあらためて考えさせられるトピックです。
映画鑑賞料金を上げることによって、客単価が上がりますが、従来どおりの集客を得られるのか。逆に、映画離れに拍車がかかるのではないか、と懸念されています。くわえて、業界トップのTOHOシネマズが値上げを決めたことで、他社の興行会社がどのような判断を下すのか、動向に注目が集まっています。
一方で、ネットフリックス作品の劇場公開は、映画の定義や映画館の立ち位置について、各会社がどのような判断をするかに注目が集まります。従来、映画は映画館で上映されたあと、DVD/ブルーレイの販売やテレビで放映するという順番で展開されていました。しかし、今回の『ROMA/ローマ』の劇場公開を皮切りに、配信と映画館の差がどんどん埋まっていくのではという懸念が生じています。
つまり、これまでは映画館で上映した後、二次利用として配信の選択肢があるというスキームが通常でしたが、今後は配信の後に映画館での上映、もしくは映画館で上映した直後に配信することが一般的になるかもしれないということ。配信・映画館の差が縮まると、これまでの映画ビジネスに大きな変化が生じます。
また、2つの話題を絡ませると、映画館の値上げによって映画離れが懸念される一方で、ネットフリックスの値上げについては、比較的、否定的な声を聞きません。背景には、配信プラットフォームの手軽さ・便利さによって、消費者がいくぶんか寛容であるものと捉えることもできますが、本来の映画の価値・映画を観る体験が明らかに変容してきたことを表しています。
映画を作り、映画を映画館に持って行き、映画を宣伝し、映画館が映画を上映する。そして、販売や配信などの二次利用をする。それらすべての業態で働く者たちが、映画本来の在り方を見直す過渡期に差し掛かっているのは間違いありません。
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映画業界の憧れや熱意だけでなく、現実も見据える
映画業界は、華やかなイメージが先行しがちです。もちろん、映画は多くの人々に感動を与えるものであり、最大の魅力と言っていいでしょう。しかし、実際に業界に身を置くのなら、憧れや熱意を抱くだけでなく、現実を見据えることが大切です。その上で、どの業態で活躍したいのか、貢献したいと思うのかをじっくりと考えていきましょう。
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