このページのまとめ
- 工作機械は景気の影響を大きく受ける業界
- 今後国内向け市場は縮小傾向にあり、海外需要を取り込む施策が重要となる
- 新規分野(現時点ではスマホなど)が常に発生するので、成長が止まることはない業界といえる
工作機械とは、あらゆる機械を作るための部品を加工・製造する機械です。自動車や航空機、精密機器、IT製品などの金属部品や金型を作り出すために用いられ、機械を生み出す機械であることから“マザーマシン”とも呼ばれています。工作機械分野は、ものづくり立国日本の根幹をなす産業といえるでしょう。
普通の製造業分野と同様、町工場から大手企業まで、さまざまな規模のメーカーが散在し、ピラミッド型を形成しています。
本記事の執筆者
弓削 徹 (ゆげ・とおる)
製造業のマーケティングコンサルタント。ものづくり企業のマーケティング経営を支援するほか、商工会議所で500回超の講演講師を務めるなど、日本の土台である中小企業を、その下から支えるコンサルタントとして活動。主な著書に『キャッチコピーの極意』(アスカビジネス)『顧客は展示会で見つけなさい』(日刊工業新聞社)など。
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工作機械の種類
工作機械にはさまざまな種類・形状のものがあり、バラエティに富んでいます。それぞれの工作機械の種類を紹介していきます。
旋盤
工作物を回転させ、ここに工具を接触させることで円柱や円筒などの部品を加工するものです。普通旋盤のほかに、立て旋盤、卓上旋盤、タレット旋盤、CNC旋盤、CNC自動旋盤などがあります。
フライス盤
旋盤とは逆に、工具を回転させて工作物を削り、角材などの部品を加工するものです。
ボール盤
工作物をテーブルに固定し、ここへ回転するドリル状の工具を進入させて穴をあける工作機械です。
マシニングセンタ
1つの機械で複数の加工を連続で行なえる工作機械です。工作物を自動交換したり、刃物を入れ替えるなど、無人で加工をこなすことができます。最近では直交3軸と旋回2軸の「5軸制御」機能を搭載するなど、複雑形状の加工を人間の手のように実現します。
“水”を用いてさまざまな素材をカットするウォータージェットカッターを専門に製造するメーカーもあります。
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大手メーカーから町工場まで、多様な工作機械を販売
工作機械メーカーは、各種工作機械を開発・生産し、それを使用して部品や金型を加工する製造業者に販売し、利益を得ます。特定の部品を製造するために、オリジナルの特注品を開発・納品するケースもあります。
顧客企業は、大手メーカーから町工場までさまざまです。小さな町工場でも、競争力の向上や人手不足解消、人件費節減のために高額な工作機械を導入します。
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工作機械業界の現状
2018年の販売額は1兆6,844億円(出典:日本工作機械工業会統計)で、近年の好調を維持していますが、米中の貿易摩擦に起因して中国・アメリカ両国からの受注が減退しており、各国の自動車産業などにも影響が出ています。中国の旺盛な設備投資に支えられてきた需要はいったん様子見となり、2019年以降の受注額は不透明といわざるをえない状況です。
もともと工作機械市場は企業の設備投資に対する意欲に左右されることが多く、景気の影響を受けやすい産業であるとされています。そのため、景気動向の先行指標とされることも少なくありません。ある業界で設備投資の様子見が起こると、商談から納入までの期間が長い傾向にある工作機械産業は波及的、拡散的に影響を受けることになります。
今後、国内市場は大きく成長せず次第に小さくなると考えられます。そのため海外市場をどのように取り込んでいくか、また為替リスクなどをどう減じていくかなども課題といえるでしょう。
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工作機械業界の脅威
工作機械業界の脅威は、部品数の減少と世界各国の動向です。
電気製品化・生産効率化による部品数の減少
故障しづらい仕様、生産性の向上を目指すと、どうしても部品点数は減少していきます。部品の需要が減ることは、中小企業や町工場などの加工下請業者だけでなく、工作機械産業にとっても脅威となりえます。
あわせて、より効率的な高速生産を可能にする高付加価値マシンを開発、提案していくことが求められます。製造業の現場では比較的、生産性の向上が進んでいるものの、さらに高度化していくソリューションを提案していく必要があるのです。
世界の競合の中、どういった価値を出すか
国外に目を向けてみましょう。
無人製造管理やIoT連携など、付加価値を高めるアイディアやコンセプトを追求する「インダストリー4.0」を標榜するドイツは、工作機械における日本のライバルです。
アメリカはかつてのような勢いはないものの、宇宙・航空機分野に関する加工機についてはいまも競争力があります。
イタリアは繊維など特定産業向けの工作機械にノウハウを持ち、個性的な工作機械を送り出しています。ニッチなニーズに対応して価格競争から逃れる戦略や、ユーザーに寄り添った技術開発によって高付加価値を生み出していく手法という観点では、お手本といえるでしょう。
また、中国などの新興国は、工作機械のように高度な精密さを求められる機器類では日本に遅れをとっていました。しかし近年では技術が磨かれ、生産金額ベースではすでに中国製工作機械に抜かれています。特に中国は「中国製造2025」を国策として掲げており、製造業のトップ集団入りを目指しています。
ものづくりで成長していく国や地域があれば、それは日本にとっての市場拡大チャンスと考えることもできます。
今後も各国の動向に注視しつつ、つねに一歩先を行く高度な技術開発を進めるとともに、知財保護についても取り組んでいく必要があるといえるでしょう。
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工作機械業界の今後~成長のカギは自動化・効率化とデータの利活用
人口減少が本格化するにしたがって、自動生産システムやロボット製造ラインなどが普及していくことは明らかです。工作機械業界も、長期的には自動化・効率化のニーズに基づく堅実な成長が見込まれます。
仮に何かの産業が縮小・衰退したとしても、一方でリージョナルジェット(短距離輸送用の航空機)やスマートフォンのように、新規分野が立ち上がれば、今度はそれを対象市場として売上を立てていくことができ、成長のタネが尽きるということは考えづらい産業であるといえます。
工作機械の運用から得られるデータも注目されています。データの活用によって、機械停止時間の短縮、メンテナンスコストの低減など、さまざまな効果が見込めるでしょう。
現在までのところ、それは十分ではなく、とくに中小メーカーは新たな価値を提供・提案する取り組みが遅れています。
日本は過去、家電や通信、IT分野において世界標準を握ることにことごとく失敗してきました。今後、工作機械がネットワークに組み込まれる時代を見据え、その標準を握ることに戦略的に取り組んでいくことが必要かもしれません。
電子部品業界については「電子部品業界の現状・今後の動向について」も参考にしてください。
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本記事の監修者
淺田真奈(あさだまな)
大学時代は接客のアルバイトを3つかけもちし、接客コンテストで全店1位になった経験をもつ。新卒では地方創生系の会社に入社をし、スイーツ専門店の立ち上げからマネジメントを経験。その後、レバレジーズへ中途入社。現在はキャリアチケットのアドバイザーとして、学生のキャリア支援で学生満足度年間1位と事業部のベストセールスを受賞し、リーダーとしてメンバーのマネジメントを行っている。