このページのまとめ
- 2016年からの「電力小売全面自由化」を受けて、市場競争の波に晒されるように
- 近年は電気の市場価格が上がっているため、小売電気事業者は500社以上あるものの、発電所を持っている旧来の電力会社が優位に
- 旧来の電力会社は消費者との結びつきが強い事業所と協力して営業力を強化していくことが予想される
- 新規の小売電気事業者は電気以外のサービスを提供するなど、消費者との接点を強化し、強固な顧客基盤を築くことが生き残りのカギ
本記事の執筆者
本橋 恵一(もとはし・けいいち)
エネルギービジネスデザイン事務所代表、エネルギービジネスコンサルタント、ジャーナリスト。エネルギー業界誌記者、エネルギーIoT企業マーケティング責任者を経て現職。著書に「電力・ガス業界の動向とカラクリがよーくわかる本」ほか
電力会社というと、一般的には東京電力や関西電力といった地域の電力会社を思い浮かべると思います。電力会社は、かつては「公益事業」として決められた地域で事業を独占し、発電から電気を送り届けて消費者に販売するところまでを一貫して行ってきました。また、地域独占の代わりに、電気料金は「総括原価方式」といって、電気を届けるためのすべての費用に一定の報酬割合を上乗せして決められていました。そのため、利益は限られていますが、競争がなくリスクの少ない安定した事業でした。
しかし、2016年4月からスタートした「電力小売全面自由化」を受けて、さまざまな電力会社が自由に電気を売ることができるようになり、電力業界も市場競争の波に晒されるようになりました。
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電力事業の分類
電力自由化の際、電気事業のライセンスは以下の3つに分けられました。発電事業者
電気を小売電気事業者に販売することで収益を上げる
送配電事業者
総括原価方式で決められた送電線の使用料である「託送料金」で収益を上げる
小売電気事業者
仕入れた電気を消費者に販売して収益を上げる
旧来の電力会社はこの3つの事業をすべて行っていますが、新規の電力会社の多くは、小売電気事業者として参入しています。
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販売電力量のシェア
出所:電力小売全面自由化の進捗状況について- 大手新電力のシェア2017年度
経済産業省によると、新規参入の電力会社のうち、工場やビルなど大口のお客様を対象とした会社としては、エネットがトップで、これにF-POWERが続いています。法人向けを除く一般消費者を対象とした分野では、東京ガスがトップでKDDI、大阪ガス、JXTGエネルギー(ENEOSでんき)、SBエナジー(ソフトバンク)がこれに続いています。
一方、旧来の電力会社におけるシェア(お客様の軒数)の割合は、2018年12月の段階で約80%です。なかでも最大のシェアを誇るのが、東京電力グループの小売電気事業者である東京電力エナジーパートナーで、全体のおよそ4分の1に相当します。これに関西電力、中部電力が続きます。
都市ガス業界については「都市ガス業界の現況・今後の動向について」も参考にしてください。
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電力業界の今後
現在、小売電気事業者は500社を超えており、リストは経済産業省のホームページで見ることができます。旧来の電力会社が優位も、再生可能エネルギーの増加により競争激化
実は、新規参入の小売電気事業者の多くは、「日本卸電力取引所」という、電気の取引所で電気を調達し、販売してきました。以前であればこれで十分に利益が出ていたのですが、近年は電気の市場価格が上がっており、発電所を持っている旧来の電力会社が優位になっています。市場価格が上がっている理由としては、渋滞の電力会社も電気を一度市場に出してから買い取る「グロスビディング」と呼ばれる制度などが影響しているのではないかという指摘があります。しかしながら、再生可能エネルギーの増加によりこの構図に変化が起きています。
再生可能エネルギーとは、太陽光や太陽熱、水力、風力、バイオマス、地熱などの資源が枯渇しないエネルギーのことを指します。再生可能エネルギーは、温室効果ガスを排出せず、さらに国内で生産できることからも有望なエネルギー源と言えます。
再生可能エネルギーを普及させるため2012年に導入された、長期に電力会社が再生可能エネルギーの電気を決まった価格で買う「固定価格買取制度」も一因となり、ますます再生可能エネルギーが増加しています。 とりわけ事業用の太陽光発電所が大量に増加し、日本全国の田園風景を一変させるほどになっています。
再生可能エネルギーが増えると、電力会社の火力発電所の稼働率は下がり、発電事業は利益が出にくくなります。
このほか、LED照明の普及などによって省エネが進み、販売電力量そのものが減少しています。旧来の電力会社にとっても、電気の小売の競争は激しくなっていると言えます。
旧来の電力会社の対策は「業界再編」
こうした背景から見えてくるのは、電力業界の再編です。旧来の電力会社は、発電所を所有しており、安定した電力供給が可能です。一方、小売については、消費者との強い接点を持っていないのが実情です。そこで、旧来の電力会社は消費者と結びつきの強い事業所との「提携」「出資」「買収」を通じて、営業力を強化していくことが予想されます。すでに見られる提携としては、東京電力エナジーパートナーとソフトバンクグループのSBエナジーや、同じ東京電力エナジーパートナーとニチガス、あるいは関西電力とKDDI、中部電力と大阪ガスといった組み合わせがあります。
また出資の例としては、関西電力はアイグリッドソリューションズ、中部電力はLooop、東北電力は東急パワーサプライという小売電気事業者に出資しました。
買収では、中部電力によるダイヤモンドパワー、関西電力による中央電力の買収があります。
新規の小売電気事業者がとる対策
では、小売電気事業者はどのように生き残るのでしょうか。1つは、消費者との接点を強化し、強固な顧客基盤を築くことです。具体的には、会員制サービスの導入や定期的なお客様との接点の構築などがあります。これは都市ガス会社や通信会社、eコマース会社などが得意とするところです。また、営業チャネルも、店舗、訪問、Webなどさまざまなものを活用することになります。
また、消費者との接点強化には、多様な商品・サービスを提供することも有効です。セット販売やセット割引はその1つで、住宅リフォームやハウスクリーニング、保険などとセットで電力を販売するサービスなどがあります。
電力サービスとして重要になっていくのが、増大する太陽光発電に対する取り組みです。日中に大量に発電された電気を、蓄電池や電気自動車などをうまく利用して効率的に消費し、発生した余剰電力を報酬として消費者に還元するしくみが考えられています。これは電気事業の次のビジネスとして注目されています。
このほか、特定の市町村などに特化した地域限定の電気事業や、環境にやさしい再生可能エネルギーの電気を専門に販売する小売電気事業者などが、生き残っていくでしょう。
例えば、地域限定の電気事業の場合、地域のエネルギー資源を地元で活用すると同時に、その収益を使って農業の六次産業化などほかの事業を行い、地域経済の循環を目指すことができます。
また、再生可能エネルギーに特化した電気事業は、より環境にやさしい商品を選ぶグリーンコンシューマーと呼ばれる消費者、そしてイオンやリコーのように、使う電気を再生可能エネルギー100%にした企業などにニーズがあります。
気候変動問題に対応するため、日本政府は2050年にはCO2の80%削減を目指しており、2030年、さらにその先の2050年に向けて、発電所は再生可能エネルギーにとって代わられていきます。
電気をたくさん売るのではなく、お客さまに満足してエネルギーを使ってもらえる会社が、電気事業の主役になっていくでしょう。
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本記事の監修者
淺田真奈(あさだまな)
大学時代は接客のアルバイトを3つかけもちし、接客コンテストで全店1位になった経験をもつ。新卒では地方創生系の会社に入社をし、スイーツ専門店の立ち上げからマネジメントを経験。その後、レバレジーズへ中途入社。現在はキャリアチケットのアドバイザーとして、学生のキャリア支援で学生満足度年間1位と事業部のベストセールスを受賞し、リーダーとしてメンバーのマネジメントを行っている。